朝、いつものように学校へきて机から筆箱を取り出す。
だが、取り出す際に落ちたものがあった。
「・・・なんやこのぐっしゃぐしゃな紙くずは」
あたしの足元にあるのはぐしゃぐしゃに丸められた紙。
あたしはこんなものを机にいれた覚えはない。
(なんやこれイジメか?)
とりあえず放置しておくわけにもいかないので、拾おうとかがむ。
と、その瞬間何故か視線を感じた。
不思議に思い顔を上げてみたら、友達に囲まれながら机に座る忍足謙也と目が合う。
そして数回瞬きをしたと思えば、勢いよく顔を逸らされた。
(なんやねん・・・)
少しばかしその反応に傷つきながら、もう一度紙くずを拾おうと目線を下におろす。
と、またもやさっきと同様視線を感じる。
紙くずに手を伸ばしてる状態で、ちらりと上目で先ほどと同じ方向を見た。
すると、やはり、忍足があたしを見てる。
ちゃんと顔を上げて、忍足と視線を合わせれば今度はすぐさま顔を逸らされた。
(イラァ・・・)
わけのわからない、その行動に多少のイラつきを感じる。
あたしは何か文句でも言ったろかとか思ったけど止めた。
何せあっちは結構女子に人気だし、つっかかったともなれば後々怖い。女子が。
(ま、ええか)
自分の中で一言呟いて解決させると、まだ拾っていなかった紙くずに手を伸ばす。
(さて、ゴミ箱に、)
紙くずを手に、あたしはゴミ箱まで一直線で行く。
ゴミはゴミ箱へは常識だ。
いくらあたしのゴミでないにしろ、ポイ捨てはよくない。
朝からええ仕事やな自分なんて思いながら、ゴミ箱にたどりつき捨てようと、
「ちょっ、ストップ!!」
「っ・・・!?お、・・・おした、」
り、忍足と発音される前にゴミ箱に捨てられようとしていた紙くずがあたしの手から消える。
(は?は?何?何なん?)
突然のことで頭いっぱいの疑問が浮かんだ。
さっきまで友達といたはずの忍足が、私の前にいて、紙くずを手にしている。
それも真っ赤な顔で、だ。
ボケッと忍足を見ていると、見る見るうちに耳まで赤くしだした。
ますます疑問が浮かぶ。
(何コイツ。熱でもあるんか?)
じっと見てればおよおよと目を泳がせ始めた忍足。
なにか言いたそうなのだが、もじもじするだけで埒があかない。
しかし、気づいたことがあった。
(せや、)
「・・・その紙って、忍足のだったん?」
「!お、おん、そ、そう、や」
しどろもどろに忍足があたしの返答する。
忍足の手にはあたしが先ほど捨てようとしていた紙。
ぐしゃぐしゃの紙くず。
何の嫌がらせかと思ったが、・・・何の嫌がらせだ?
(あたし、知らんうちに何かしたんかな?)
そう思っても、残念ながら忍足とあたしには何も接点がない、はず。
(んおー・・・思いつかんわ)
考えても浮かぶは疑問ばかりで、首を傾げる。
すると、忍足の上擦った声があたしの名前を呼ぶ。
「何?」
「あっ、あー、これの、ことなんやけど、」
忍足があたしにぐしゃぐしゃの紙くずを差し出してきた。
(捨てろっちゅーことか?)
あたしはその紙くずを受け取り、再度ゴミ箱へ捨てようとしたらまたしても忍足に阻止された。
何だと思い忍足に顔を向けたら、一瞬たじろいてから口を開き、
「読む前に捨てることないやろ!」
と大きな声で一言。
(は・・・?読む、前・・・??)
そして、うるさかった教室も忍足の大声のおかげで静まり返ってしまった。
教室にいる人間がなんだなんだとゴミ箱の前にいるあたしと忍足に注目している。
その視線に居心地を悪くしながらも、忍足があたしを真っ赤な顔で睨んでいるので、
逃げる選択肢は無しにして、とりあえず紙くずを開く。
(ん・・・??なんか書いて・・・)
両手で皺を伸ばして、元の形に戻す。
その際に見えてきた、文字。
あたしは目を見開いて、忍足を見やる。
未だに顔を赤くして、あたしを真剣な瞳で見ていた。
途端に、あたしも顔が熱くなるのを感じて、その紙くず、
もとい手紙を綺麗に折ってポケットにしまった。
あぁ、やばい、接点ができてしまったみたいだ。
『のことがすきです。俺とつきあってください。』
字はぐしゃぐしゃになった紙と比例してぐしゃぐしゃな感じ。
ひらがなばっかだし、字はまるで、みみず、みたい。
でも、
想いが伝わるには十分の言葉だった。
さらに、
あたしの心を動かすにも十分すぎたものだった。
紙くずのラブレター