「いーやーやー!」

「こら!我侭言うたらあかんでしょ!」

「嫌や!!がなんと言おーとワイは行くんやー!!」






部活中、マネージャーのと金ちゃんの声がコートに響いた。 何事かと部員達が二人をちらちら見ている。 俺はそれを少し遠めで見ていたが、の助けを求めるような視線を受け ため息を1つ零し二人のもとへ。






「こーら、金ちゃんはさっきから何駄々をこねとるんや?」

「げっ・・・白石・・・」

「もー聞いてよ、蔵!金ちゃんったら、今から東京の越前くんのところに行く言うて私の言うこと聞かへんのよ!」

「ほー・・・」

「やってコシマエと戦いたいんやもん!」

「ちゃうで、金ちゃん。コシマエやのうてエチゼンや」

「?何言うとんのや。あれはコシマエやで?」

「せやからちゃうて。確かに越前のえちの漢字はこしって読むけど、ちゃうんやで」

「何言うとんねん!ワイ間違えてへんって!のばーか!」

「なっ・・・!き、金ちゃんのが私より馬鹿やろ!!」






いつの間にか二人の話が越前の漢字の読み方についての口論となった。 なにしとんねんこいつら。 ぷくっと頬を膨らませて言う金ちゃんに対し、もしだいに頬が膨れていく。 その光景は、非常に和むものなのだが、如何せん今は部活中だ。 試合中の謙也なんてさっきからこっちを気にしすぎて光にズタボロにされてる。 小春にいたっては写真撮っとるし・・・。 千歳は・・・どこ行ったん? はぁ、ため息がまた1つ口からこぼれた。 二人は未だ口論中。というか、ただの小学生の言い合いになっている。 アホか・・・、小さく呟いてから自分の左手に巻かれている包帯を腕が見えるくらいに緩め、と言い合いしてる金ちゃんの目の前にかざす。 さぁ、いつもの台詞いくで。






「金ちゃん、これなんや?」

「はぁ!?そんなん白石の毒手やろ!・・・・・ギャー毒手!!」

「せや、毒手やな。金ちゃんがあまりにうっさいんで出さなあかんなー思て。なぁ金ちゃん?金ちゃんは毒手で死にたいんかな?」

「ひっ、わ、悪かった!許してぇな白石!ワイまだ死にたないねん!」






大きく肩を揺らし怯えた表情で俺を見て、脱兎のごとく左手から逃げるように走っていく。 まったく・・・しゃあない子やな・・・。途中で転びそうになる金ちゃんを見つめながら、 漏れる苦笑。 そして、砂埃さえ舞うくらいの速さで走っていった金ちゃんを呆然と見つめていたがハッとしたように、 俺に頭を下げた。 ぱちぱち、と瞬きをしてに声をかける前にが勢いよく顔を上げる。






「ごめん!私ったら部活中やのに金ちゃんとあんな・・・しょ、小学生みたいな言い合いして・・・」






さっきの言い合いを思い出したのか、少し恥ずかしそうに頬をほんのり赤くしながら謝るを見て、 俺の頬が緩んだ。 まったく、こっちもしゃあない子や。 俯き気味のの頭を優しくひと撫でし、ふと思い浮かんだことを口にする。






「なぁ、」

「え、なに?」

「将来はあんな喧しい子供が居ってもええな」

「・・・はい?」






な、と言うての顔をのぞいたら、 が不思議そうに首を傾げた。 だが、数秒後、俺の言葉の意味に気づき瞬時に頬を真っ赤に染め「馬鹿」と一言呟き金ちゃんのもとへ 走っていく。 その背中を見つめながら、我ながらええ案やな、なんて思った。














幸せな家族計画