ドンガラガッシャーン!!
「ギャーー!!」
・・・どうもさっきからお隣さんがうるさい。先ほどからガタンガラガラぎゃーの繰り返し。なにやっとるん、あいつ。
隣の家には今娘が一人なはずや。え、なんでわかるかて?そらお隣さんやからなぁ・・・・・・只今あいつの親と俺の親が一緒に出かけてん。
まぁ、つまりやな、俺も一人なわけで・・・暇。ちゅーわけで、さっきからうっさい隣人に苦情言いに行くか!
そう思うたら即行動。薄い上着を羽織って明かりを確認して鍵を掛ける。
一分もかからん。
ピンポーン
「おーい、俺や、お隣の息子さんの謙也くんやでー」
インターホンを鳴らし、が出てくるんを待つが反応がない。・・・シカトか。なんやこれは勝手に入ってもええっちゅうことか?
うーんと首を捻り、考えてみたが・・・あれやな。あんな奴に気ぃ使うことないやんけ。何十年お隣さんやっとるんや。
俺は数秒でその答えを導き出すと、何の躊躇いもなくドアノブを捻った。(不法侵入やないから、断じてちゃうで)
「おーい、ー?」
一応玄関でもう一度呼びかけてみる。これで来たら堂々と入れるっちゅーもんや。
「・・・」
うん、なんのアクションもあらんね。ええよ、あがるかんな。
まず・・・そやな、とりあえずの部屋向かうガッシャーン!!・・・・・台所やな。今の音確実に台所の方からや。
二階にあるの部屋への階段を上ろうとしとった足を今度は台所があるリビングへ向かう。・・・ちゅーか台所やったら普通にインターホン聞こえるやないか。
故意でシカトかいな。会ったら文句言うたろ。
カチャ
「・・・ー?」
「ひっ!・・・・・はぁ!?おまっ、なにしとんねん!!」
ドアを開けリビングに顔だけ出すと、ドアの音で台所から粉を被ったが出てきた。それはもう驚いた顔をしながら。
いやいやいや、なにしとねんって・・・お前のがなにしとんのや。
なんや、空気も・・・粉っぽいちゅうか・・・。
しかし、その空気中に甘い匂いも漂ってくる。はぁ?なんで?
「えー・・・なんか、うまそうな匂いすんねんけど・・・料理でもしとったん?」
「き、きのせいや!きのせい!ちゅうか、なに無断で人ん家入っとんねん!!」
「無断ちゃうもん。ちゃんとピンポンやったで」
「ピンポンやったとしてもやなぁ、許可なしに入ってきたら意味ないねん!」
それは・・・たしかにそやなぁ・・・。に言われ、俺とお前の仲やからええやんけと思っとたけど・・・親しき仲にも礼儀ありやもんな。うんうん、これは謝らなあかんな。
「すまん」
「・・・・え、何素直に謝っとるん?キモッ」
「・・・・・殴ってもええか?」
「殴り返すで」
はそう言うて腕を組んでにやりと笑う。なんでこの女はこないに凶暴なんや。と、に再度なにか言ってやろうと口を開こ思うた瞬間、の後ろから何やら煙が見えた。
・・・・・・・けむっえ!?
「ちょちょちょ!!」
「なっ、なんや!」
「お前の後ろ煙見えんねんけどっ!」
「えええええ!?ぎゃーまたやってもうたあああ!!!」
そう叫ぶや否や台所へ急いで戻っていった。なんやなんや?俺も気になりの後を追う。
「おーいどないしたん?」
「ひいい!焦げ・・・っはぁああ・・・・」
「・・・え、なんやそれ?」
煙の原因はレンジやったみたい。煙言うても少しで、匂いは何故か甘い。不思議や。
その前では何か持ったまま項垂れとる。不思議に思った俺はの背中からひょいとが持っとるものを覗き込んだ。
そこにあったのは少し焦げとるが・・・タルト、やなぁ・・・?うん、多分タルト。・・・え、なんでタルト?いや、その前にこいつが・・・お菓子作っとる!?
俺としてはそっちのが驚きやった。普段女らしいとこが何一つないこの女が・・・お菓子作りやで!?
混乱する頭で俺は未だに項垂れとるに控えめに声をかけた。
「えー、え、どないしたん?え、これ、タルト?タルトなんか?し、しかも、手作り・・・?」
「そや・・・・あ、あれやで・・・別に謙也のために作ったんとちゃうからな!」
こっちを振り向いたと思たらギッと俺を睨む目は、なんでか知らんが軽く涙目で思わず俺は「す、すまんせん!」と小さく謝ってしもうた。
なんもしとらんのに・・・多分。
それからは大きなため息を零してから、悲しそうにまた視線が多少焦げてるタルトへ移動。
それにしても・・・俺のために作ったわけやないてなんで言うたんやろ?俺かての手作りを食えるなんておも・・・お?タルト?
俺はじぃとが持っとるタルトを見つめる。そういや・・・昨日辺り、こいつとおるとき雑誌見ながらタルト食いたい言うた気ぃするんやけど・・・。
・・・・・っていやいやいや!ちゃんと俺のために作ったんとちゃう言うてるしな!きっといつものの気まぐれで・・・そ、そやんなぁ?
自問自答を頭で繰り返し取るうちに、はタルトを型からはずしとった。・・・う、お、どしたんや、俺。
もし、ああは言っとっても俺のために作ってくれたんやったら・・・めっさかわええと思わん?かわええやんなぁ?
・・・この女もかわええとこあるんやな。ちゅうか俺さっきからかわええ言い過ぎや!恥ずい!!
うし!男は度胸や!ここは勇気を出して聞こうやないか!
「な、なぁ」
俺に背を向けてるに再度控えめに声を掛けると、だるそうに首だけをこちらに向けてきた。うっ・・・そないだるそうにせんでもええやん!
多少怯んだものの、まだあるなけなしの勇気で口を開く。(俺ガンバ!)
「あ、あんな」
「・・・なんや。」
「なー・・・な、」
「なんや言うとるやろ」
「・・・なんでタルトなんて作ろうと思たん?」
「・・・・・ちゃうからな。お前が食いたい言うたから作ったわけやないからな。」
「お、おう。」
「・・・せや、し、白石くんが食べたい言うてたなー思て作ったんや。けど、失敗してもうてん。こんな失敗作白石くんにあげられへん。
やから・・・け、謙也が失敗作でもええっちゅーならこれやらんこともないで」
「あ、味は大丈夫やと思うから・・・」そう今にも消えそうな声で言うとまたそっぽ向いてしもた。
ほんっとうに最後の方は声が小さかったやんけど、しっかり俺の耳には届いててそれに大きく「いる!!」と答えた。
あまりの声のでかさにの肩がびくつく。うん、自分でもびっくりの声量や。
そっぽ向いてても、髪からのぞく耳がめっちゃ赤かったのを見て、めっちゃ嬉しくなった。
「はい」とそっぽ向きながらも俺に少し焦げてるタルトを寄こしてくれて「ありがとうな!」と俺が言うたら、
こくんと1つ頷いた。もうっ可愛すぎやろこいつ!!
素直じゃなくても君は、
ホンマにかわええやっちゃ!
(・・・ま、まずない?)(んー、うまいでぇ!これで失敗なんてお前言うようなったなぁ!めっさうまい!)(お、おーきに・・・)
あんな、もともとこいつにあげるつもりやってん。やけど、こげてしもうて・・・あげるんやったらやっぱ見た目も完璧にしたいやん?
でも、それでも謙也はええっちゅうから・・・やってもうた。あぁ、今度やるときは見た目も完璧にしたいなぁ。
・・・うし!見とれや、謙也!私かて女や!お菓子の1つくら完璧に作ってやるで!
次は見た目もうまそうって言わせたるさかい、覚悟しぃや!