「好きだー!!」
「っ!ま、またお前か!」
「あぁ、そうだ!いい加減私のものになれ、真田弦一郎!!」
そう言って勢いよく人差し指を真田弦一郎に向ける。
ここが廊下であるとかそんなの関係ない。
廊下にいる生徒どもがまたかという視線を投げかけていようが関係ない!
ここに、真田弦一郎がいるから告白する、ただそれだけだ。
恥ずかしいとは思わない。だって、好きなんだ。仕方が無いことだろう。
ちなみに真田弦一郎に、ここ一ヶ月くらいこんな感じでずっとアタックしている。
あぁ、そのたび振られているがな。
だが、めげないぞ!
私は、今時珍しいくらいの硬派で同い年とは思えなくらい老け込んでいるこいつに無謀な恋をしている。
ふっ、クラスの友達には趣味が悪いと言われたが・・・そんなことはない。
いいじゃないか、初な反応が可愛いんだぞ。不意で抱きついたときは泡吹いて倒れたんだからな!
どうだ、可愛いだろう!それに私がすっ転んだときに見えたパンツに鼻血吹いて倒れたんだからな!
恋してるって単語だけでけしからん!って言うんだぞ、可愛いじゃないか真田弦一郎!
・・・そんな感じに私は真田弦一郎にメロメロなのだ。
だから、今日も今日とて真田弦一郎を口説きにかかっている。
だが、奴ときたら最近私から逃げるようになった。
前まではきちんと断りを入れて振ってきていたというのに、今じゃ私の姿を見るたび逃げる。
ものすごく不服だ。まぁ傷つきはするが、諦めるつもりは無い。
そんなわけで、逃げ惑う真田弦一郎をやっとこさ捕まえ、今日の告白にいたっているのだが・・・
何故だ。無言だぞ?
いつもなら「たわけ!今俺はそのようなものに構っている暇はない!」と言うのに、
私から顔を背けるだけで何も言わない。
ど、どうしたんだ・・・?
「お、おい?真田弦一郎?どうしたんだ?なぜ、何も言わない」
「・・・・・いい加減にしろ」
「真田弦一郎?」
「俺をからかうのも大概にしろ!!」
「・・・・・・は?なに、言って・・・」
威厳のある大きな声で言われた一言に、私はその言葉を出すだけが精一杯だった。
いや、本当に・・・・・・は?
奴に向けていた人差し指が徐々におりていく。
困ったような照れたような表情じゃない、どこか冷めたような表情に胸が痛くなった。
からかうのも大概にしろ、ということは・・・まさか・・・
私が、真田弦一郎に向けていたものすべてを、冗談でやっていた、と捉えられていたのか・・・?
それで、最近は私から逃げていたのか?挨拶も、まともにしてくれなくなったのか?
どんどん浮かぶ考えに私は胸が引き裂かれそうに痛み出す。
だって、私は・・・、
・・・私はこんなにも、いつだって本気でいたというのに・・・。
ふいに、私は鼻の奥がつんと痺れて咽が引きつった。
私の想いを冗談と思われていたなんて、そんなひどい話あるか。
冗談で、私は告白なんてしない。本気だから、本気すぎるから何度だってめげずに告白してたんだ。
なのに・・・。
「な・・・!?」
「っ」
あぁ、ダメだ。
こんなの・・・悲しいより、悔しいぞ。
私の視界がどんどん霞んでいく。
この気持ちを疑われた。
そのことがこんなにも私の胸を締め付ける。
「真田、弦一郎・・・」
「!!な、なんだ?」
「私は・・・、」
震える喉で必死に言葉を発せようとする。
頼む、私の体。ここで終わらせたくないんだ。
頼む、彼にわからせてやりたいんだ。私は本気で好きだと。
からかう気持ちなんて一切無い。好きだ、・・・こんなにも好きだと。
でも、私の思いとは反対にうまく言葉を出せない。
歯痒くてもどかしくて、どうしようもない自分に苛立ちを感じた。
なんとか気持ちを落ち着かせようと瞳を閉じて、息を吸う。
真田弦一郎、私は・・・
「・・・すまない」
「っえ・・・?」
「泣かせるつもりはなかった・・・」
真田弦一郎が悲しそうな顔でそう言った。
咄嗟に自分の頬に触れると、かすかに濡れる手。
あぁ、気持ちを落ち着かせるために瞳を閉じたときにこぼれたのか・・・。
そう考えながら、手で頬を擦る。
真田弦一郎が悲しそうな顔をする必要はないのだ。
私が勝手に流したものだからな。
これ以上真田弦一郎が困らぬよう涙を拭っていく。
すると、目の前にそっと差し出されたハンカチ。
その行動に戸惑う私。
こんなことされたら、期待をしてしまうではないか・・・。
暫く受け取ることもできずハンカチを見ていれば、真田弦一郎が頬を赤らめて「これを使え」ともう一度私の目の前に突き出してきた。
「い、や・・・大丈夫だ」
「駄目だ。あまり手で擦らない方がいい」
「じゃあ袖で・・・」
「いいからこれを使え」
「・・・ありがとう」
受け取るのを渋っていたら、真田弦一郎が私の手を掴んでハンカチを握らせた。
ほら、そんな風に優しくしたりしちゃうから、私はもっと好きになっちゃうんだよ馬鹿野郎・・・。
ハンカチで顔を覆って酷い顔を隠す。
今更隠しても遅いかもしれないがな・・・。
「そのだな・・・」
「なん、だ・・・」
「俺は・・・あまり、こういうことには慣れていない」
「?」
ハンカチから顔を出し、歯切れの悪い話し方になった真田弦一郎を見上げた。
ばちりと目が合ったと思ったら真田弦一郎の肩がびくりと跳ねる。
泣いたことによりすごい鼻声になった声で私は彼の名前を呼んだ。
「っ!なんだ!」
「い、いや・・・真田弦一郎こそ・・・慣れていないとは・・・?」
「あ、そ、それはだな・・・」
「?」
徐々に顔を赤くさせていく真田弦一郎。
目も泳ぎだして、少しそわそわしている風にも見える。
いつもの真田弦一郎らしくない。
もしかして・・・、
「風邪、を引いているのか・・・?」
「!い、いや風邪は引いていない!」
「だが、顔が赤いぞ・・・?」
「・・・!!こ、これは・・・っ」
先ほどより顔を赤くさせ否定する。ならば、ますます意味がわからない。
風邪ではないのに、何故顔を赤くする?
首を傾げて真田弦一郎を見つめていると耳まで赤くなっているのがわかった。
・・・ますますわからんぞ?
疑問符を浮かべていると、いきなり真田弦一郎に手首を掴まれ、驚いた私の涙は瞬時に引っ込む。
私とは違うごつごつとした大きな手と力強さに胸がドキドキして、うあ、どうしよう・・・顔が熱いぞ・・・!
脳内が軽くパニック状態と化し固まってしまった私と真田弦一郎の瞳がガッチリ合わさって、頭が爆発しそうだ。
逸らすこともできず、黙ったまま真田弦一郎を見つめているとポツリ、真田弦一郎が何かを呟いた。
「え・・・、え?今なにか言ったか・・・?すまない、聞き取れなかった」
「む!?う、い、いや、そのだな・・・」
「ああ」
「お、・・・・・・っ俺もお前が好きだ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
「く、わ、わかったなら、もう俺に冗談で絡むな!!」
真田弦一郎は・・・・・・今、何て言ったのだろう?
思考回路が一気に停止した音が聞こえた。
いや、えっと・・・好きだ、と言ったのか・・・?
だ、だれがだれにだ!!!
・・・・・・お前?
俺も、お前が、好きだ?
私の手首は未だ真田弦一郎に掴まれていて、その力強さは手首が軽く痺れてきたと身を持って体験してるわけで、
つまりは、現実というわけで・・・。
「す、すまない・・・もう一度聞いていいか?」
「あ、ああ」
「真田弦一郎が言ったお前とは・・・誰だ?」
「ッお前だ馬鹿者!」
「うぇっ?」
「〜〜〜っ俺はのことが好きだと言ったんだ!」
「・・・・・・私だと!?」
「そうだ!!」
最後はヤケクソのように真田弦一郎は言うと、顔をさらに真っ赤にさせて黙り込んだ。
私もようやく、真田弦一郎から告白をされたことを認識する・・・。
うあ、もう、どうすればいいのかわからないぐらい幸せで、私は涙を堪えるのに必死だった。
しかし、再びこみ上げてきた涙は本当に嬉しいからであって、さっきの悲しい気持ちからではない。
私は・・・やっと真田弦一郎と同じ想いに・・・・・・
って、うん?
先ほど言われたことに・・・何か引っかかる点がなかったか?
俺に・・・冗談で・・・絡むな?
うん、それはおかしくないか?
何故そんなことを・・・・・・、待て、もっと遡って考えるぞ。
慣れてないとも言っていた・・・。
これにも私は疑問だ。
黙り込んでさらには難しい顔をしている真田弦一郎におずおずと話しかける。
「あの、真田弦一郎・・・」
「・・・」
「先ほど、慣れていないと言ったが・・・何に対してだ?」
「そ、れは・・・。・・・俺は、恋愛事は慣れていない。故にお前が言う、その、なんだ・・・好き、という言葉がだな・・・恥ずかしいのだ・・・
だが、お前はその言葉を俺にいつも言う。お前は慣れているようで・・・俺は・・・」
「ち、違う!!私だって慣れていない!!真田弦一郎にしか言わない!私は・・・真田弦一郎のことを好きすぎて、どうしてもこの気持ちをわかってほしく言っていたんだ・・・!」
ずっと言いたかったことを全て真田弦一郎にぶつける。
真田弦一郎の言っていることは全部誤解だ。
私の真田弦一郎への気持ちはいつでも本気なんだ。
だから、
「やっと真田弦一郎と両想いなれたんだ・・・っ絡むなとか言わないでくれ・・・!一緒にいてくれ!!」
「っ」
堪えていた涙が耐え切れなくなりぽつぽつと零れだす。
もう止める方法なんてわからなくて、私はただ泣きじゃくった。
真田弦一郎がわたわたと慌てふためいて困っているのはわかったが、すまない、止まりそうにない。
「わ、わかった!俺が悪かった!お前の本気の想いを軽く見てしまっていたのは申し訳なかった・・・!だから、頼むから泣きやんでくれ・・・!」
「ん、っく・・・ぅう・・・っ好きだ、さな、だっ」
「っ!こ、これ以上俺の心臓を騒がせないでくれ・・・!もう耐えられん!!」
「へっ・・・!?」
引っ張られた、そう思ったときには視界が白いものに覆われた。
ぎゅっと身体全体が温かな熱に包まれる。
あまりのことで、涙はおろか呼吸まで止まった。
ああ、本当に・・・私はこんなに幸せでいいのだろうか・・・。
真田弦一郎が頭上でむせている。
自分でやっといて相当照れているのだろう。
真田弦一郎が動揺しているせいか私は随分と冷静さを取り戻してきた。
本当に本当にこいつは・・・愛しい奴だ。
私はそっと真田弦一郎のシャツを握り、顔を上げた。
真っ赤な顔で眉間に皺を寄せどこか視線が宙をさ迷っている真田弦一郎の名を呼ぶ。
最初は反応してくれなかったが、二回目はちゃんと反応を返し、私を見てくれた。
ああ、その瞳には満面の笑みの私がいて、少し笑ってしまう。
私、すごく幸せだからだな!
「真田弦一郎・・・いやっ弦一郎、好きだ!!」
「たわけ!そ、そんな大声で言うな馬鹿者!!」
「ふふっ!」
逞しい彼の腰に腕を回して、ぎゅっと引っ付く。
案の定、弦一郎が悲鳴をあげたが知らん顔だ。
だって・・・私たちは恋人同士だからこうして触れ合うのは当然なのだから!!
溢れ出して困っちゃいます
(ねぇ・・・ここ、学校の廊下なんだけど・・・君達わかってる?)
((あ))
(しかも・・・弦一郎、俺より先にリア充になるとか・・・許せないな)
(!)