・・・困ったことがおきました。
今日は従兄弟の金太郎くんが東京にテニスの試合で来るということで、
会いに行こうとしたのですが・・・困りました。
金太郎くんが携帯に出てくれません。
あの子のことですから、携帯の充電を忘れてしまって携帯の充電が切れているんだと思います。
だってさっきからいくら電話をしても、
『電源が入っていない電波の届かないうんたらかんたら』
しか聞こえないんですもん。
本当にあの子は・・・手のかかる可愛い従兄弟です。
だからこそ会いたいのに・・・。
はぁと溜息をついてベンチに座る。
私は今、家の近くにあるテニスコートつきの公園にやってきています。
テニスコートがあるということで少しの希望を込めてます。
「あぁ・・・どこにいるんでしょうか・・・」
漏れた独り言に返してくれる人なんていません。
携帯を眺めて私はもう一度溜息をつきました。
「そないに溜息ついとったら、幸せ逃げてまうで?」
「・・・はぁ」
「おいおい、言ったそばからまた溜息かいな」
「・・・え?・・・!!わ、私に言っていたのですか!?」
「おん、君に言っとった」
どこからか声がします。それはきっと公園に遊びに来た人でしょう。
そう思っていたのに、その声は私に話しかけていたものでした。
あまりにも突然のことでしたので私は驚いて大声を出してしまった。
声のした方、自分の後ろを勢いよく振り向けばとても綺麗で優しそうな男性が立っている。
顔立ちは美形の一言に限り、髪の毛は流れるように跳ねていて色素の薄い灰色がかっていて、
目は色素の薄い茶色、
左手には包帯が巻かれているので怪我をしているのでしょうか?
まじまじとその男性を観察して、ハッとなる。
せっかく声をかけて下さったのにそれを無視してじろじろと見るなど失礼極まりない!
私は慌てて立ち上がり、頭を下げた。
「え、え、どないしたん?」
「す、すみません!わざわざ声をかけて下さったのに無視をしたあげくじろじろと見てしまって・・・本当にすみません!」
「え?あ、別にええよ?気にしてへんから。むしろ俺こそいきなり話しかけたりしてごめんな?」
困ったように眉を下げて笑う姿に私の思考が一端停止する。
『そんな、私こそすみません』と言おうと思うのに、何故か口が動きません。
すべての体の機能がピタリと停止をしてしまっている。
何も言えず、その男性を見つめていると、彼はこてんと首を傾げた。
「ん?俺の顔なんかついとる?」
「・・・ぁ、い、いえ!と、とにかくすみませんでした!!」
「えっ・・・あ、ちょお待っ・・・」
彼の言葉に動かなかった口が早口に動き出して、また頭を下げて・・・
・・・気付いたら足が勝手に走り出していた。
なんだか顔が熱くて熱くて、胸が締め付けられるような感覚がして、私はいったいどうしたんでしょう?
よくわからないことが頭をぐるぐるしていると、あと少しで公園を抜けるという距離になりました。
すると、後ろからとてもよく透る声が大きく響きました。
「なぁ名前!君の名前なんて言うん!?」
その言葉を聞き、夢中で走っていた足がピタリと止まる。
あんなにもいきなり走り出したので息切れが激しく声がうまく言葉になりません。
ですが、彼の言葉に答えようと息を一生懸命整えた。
振り返って言うべきなんでしょうけど・・・今の私はそれが恥ずかしくてできません。
だから私は前を見据えたまま、彼に届くよう大きな声で言おうと思います。
「私!!って言います!!あなっ、あなたの名前はなんて言うんですか!?」
「・・・めっちゃ可愛え名前やな!!俺は白石蔵ノ介!!明日もこの時間にここ来る予定やから、
そん時はよろしく頼むわ!!」
「は、はい!!」
いつもの自分らしからぬ大きな声で返事をして、私はまた駆け出しました。
まるで王子様のような、
(そんな彼に、この時私は一目惚れというのを初めてしました。)
あ・・・・・・金太郎くん、結局どうなったのでしょうか・・・?
今更ながら金太郎くんのことを思い出し、鳴らないままの携帯を握り締め、
金太郎くんと昼間に会ったあの人の顔を交互に思い浮かべながら目を閉じた。