そわそわ、する。
昨日と同じ公園でベンチに座りながら携帯を開いては閉じを繰り返す。
あの俺が一方的に告げた時間帯まであと3分となった。
いまだあの子は現れていない。
いや、むしろそれが普通なのかもしれない。
自分からいきなり見ず知らずの女の子に話しかけ一方的に話しただけだ。
逆ナンとかそういうのが苦手なくせに自分は何をしてるんだろうと、後になって思った。
だけど、ベンチに座る弱弱しい背中を見ていたらいつの間にか声をかけていた。
おいおい、自分何してんねん。とか思いつつ口は勝手に動く。
ペラペラペラ、全く知らない女の子とよくあんなに話せたものだと今更ながら思う。
そして、見ず知らずの俺がいきなり話しかけたというのに相手をしてくれたあの子はなんていい子なのだろう。
しかも名前を聞いたらちゃんと答えてくれた、し。
さらに言えば、


(めっちゃ可愛え子やったな・・・)


おまけに礼儀正しかったし、なんて思っていると約束(これも一方的やけど)の時間まで1分弱になっていた。
それを見たらなんだか体を動かさないといてもたってもいられなくなってくる。



(来ない方が普通やな、うん。昨日ほんの少し会って話しただけの知り合い未満な感じやし、うん。来ない方が普通・・・うん)


そうは思っても期待は膨らむ。
あの子やったら来てくれるんやないか、と。
ベンチに置いていたラケットを手に取る。
いくら部活を終えた後だからと言って、練習しないわけにはいかない。
加えて場所は公園だ。練習にうってつけの場所である。


(・・・せや、別に俺はあの子に会いにこの公園に来たんやなくて、テニスの練習しに来たんや。 ま、まぁあの子に会えたらええなぁとかは思うけど、本当の目的はテニス!テニス!テニス!)


頭の中で何度もテニスの単語を呟いて素振りから始める。


(いや、本間、ね、俺部長やし、部員の上に、立っとるわけや、し!努力とか、ね、せな、ね、あかんし、ね!)


とりあえず夢中になってラケットを振っているとどこからか駆けてくる足音が聞こえた。
体がビクリと震えて慌ててラケットをテニスバックに仕舞い、タオルで汗を拭いてからベンチに座る。
異常に胸がドキドキとするのは素振りしてたせいだと何度も心に言って、着実に近づいてくる足音の主を待つ。
すると、すぐに見えてきた小柄な姿。
その姿が見えたとたん、胸が大きく音を立てた。










「あ、あの!!」

「っ、や、やあ!き、昨日振りやな!え、っと、さん・・・」

「!は、はい!昨日振りです白石さん!!」










さんは来た早々顔を真っ赤にさせながら申し訳なさそうに頭を下げた。
俺はそんなさんに顔を上げるよう言って、隣に座らせる。


(あ、やばい。今むっちゃええ匂いした・・・)










「そ、その、従兄弟の子と話してたらちょっと出るのが遅くなってしまって・・・」

「(本間は一時間前くらいからいました・・・なんて言えへんよな)・・・いや、俺も今ちょうどここに来たばっかなんや。せやから気にすることないで」

「あ、そ、そうなんですか?それなら少しだけ安心しました・・・もし待っていたらどうしようと思っていたんです」










俺の言った言葉にさんが安堵の溜息をついて、控えめに微笑んだ。
その瞬間、ズガンッ、銃弾が俺の心臓を打ち抜いた音がした。
それに首を傾げながらさんを見やると、さんも一緒になって首を傾げる。


(・・・・・・・可愛え。)


こんな姿が見られるなら一時間以上待ったかいがあったなんて密かに思った。

















さんを待っていた時間は、無駄なんかじゃなく、
































まるで愛しい姫を待っていたかのような、
(そんな気持ちになった、この時俺は漸く彼女に話しかけた理由がわかった。)





















部活で決めたホテルに戻る時間(門限みたいなもん)まで楽しくさんと談笑し、また来ることを告げてから帰った。
そんな日の夜。
さんのことを思いながらそろそろ寝ようと布団に入ったところ、隣に敷いてある布団に人がいないことに気付く。
布団から出てその人物を探そうとしたら、ベランダから何かの曲が聞こえた。
俺はベランダに顔を出すと、探していた人物がてすりに寄りかかりながら携帯をいじっている。



「金ちゃん・・・こない時間に何しとるん?」

「っうわ!・・・な、なんや白石か!ビビらせんといてぇなー!」



俺が声をかけるまで気付かなかったらしい金ちゃんがにかりと笑って携帯を大事そうに握った。
そして何故かやけに嬉しそうな顔で携帯を見つめていた。
誰かとメールでもしてたのだろうか?
それにしても金ちゃんが睡眠より携帯をいじることを優先するなんて珍しい・・・と思いながら金ちゃんの頭を人撫でして一応注意だけしとく。



「こない時間に携帯いじってるなんてあかんやろ・・・早よ寝んと明日の試合にひびくで?」

「んーわかっとる!あともうちょいしたら寝るわ!」



えへへと笑いながら言う金ちゃんの言葉を聞き、「わかった。ほなおやすみ金ちゃん」と言って俺は布団に戻り今度こそ眠りについた。