カチカチと携帯をいじる音が静かな空間に響く。
周りにはたくさんの本たちで紙の匂いが充満してる。
目の前の本の貸し借りに使うパソコンのイスに座りながら時間を見た。
あとちょっとであの人・・・今日一緒の当番である先輩が来る時間だ。
聞いてる音楽の音量を小さくして先輩が扉を開ける音を聞き逃さないように注意する。

(あー早よ来てくれへんかな・・・)

部活には元々遅れて行くということを言ってあるから、少し遅くなっても文句は言われない。
だから俺は今この時間をのんびり過ごそうと思う。
軽く欠伸をしてまたパソコンで時間を見ようとしたとき、ガラリと扉が開く音がした。
そして俺のいるところへゆっくりとやって来る足音。
すぐさま目線を携帯に戻す。
先輩が俺の元に来るまであと、少し。

(・・・あ、)











「こーら、図書室では携帯禁止ですよー」

「・・・先輩、当番の時間とっくに過ぎてますよ?それはええんすか?」

「先生に捕まってたん。しゃあないやろ・・・って財前くん仕事全くやってないやん・・・!」

「やり方知らへんから手ぇつけられません」

「何言うとんねんアホ!あんた図書委員の当番何回やってると思っとるん!?ちゅうか2年間図書委員やんか!」

「ちょ、先輩・・・図書室ではお静かに」

「っぐ・・・!確かに正論やから言い返せんわこんにゃろー・・・!」











悔しそうに拳を震わせて俺を睨む先輩に思わず頬が緩む。
本当にこの人はいつ見ても面白い。
俺のしてやったりな雰囲気に先輩は少しふて腐れながら「早よ今日の分の作業やるで」と言って本が山積みにされたテーブルへ向かった。
携帯をしまい俺もそれにつづく。












「はぁー・・・今日もこれっすか」

「当たり前やろ。さ、ちゃっちゃか終わらすでー」

せっせと用意する先輩とは反対に、イスに座りちんたらとテーブルに本とハサミと透明なカバーとハンカチを並べた。
図書委員になると、何ヶ月かに一度まわってくる一週間の図書当番。今日はその三日目。
その仕事は本の返却や貸出をしたり、本の整理をしたり、今やってるのは本が汚れたり破けたりしないように透明なカバーをつける作業だ。
非常にめんどくさい作業ばかりだが、俺はこの図書委員を2年連続やっている。











「あ、ちなみに財前くんは携帯使った罰として私より多く本のカバーつけやってくださいー」











チッと大きく聞こえるように舌打ちをしたら本で頭を叩かれた。
いつも本を大切にしろと言っている人間がやることじゃないと心から思う。
隣に座る先輩の分の山より多い自分の山を見て少しげんなりした。

(やっぱ図書委員めんどいわ・・・)











「先輩、空気入ったんやけど」

「またか。財前くんは本間に不器用さんやねーこの作業毎回失敗しとるやん・・・ほれ、貸してみ?」

「あぁ、はい。ついでにこれも」

「それは財前くんのお仕事です。頑張りや」

「チッ」

「舌打ちしたってやらんもんはやらんで」











失敗して入った空気を素早くぬいて、自分の分をどんどんやっていく先輩。
その横顔はとても真剣で、いつもの先輩とは違う表情だ。
普段から全く見られないため不覚にも綺麗だと思ってしまった。

(やけどケチなんはいただけんわ)

ハァと大きく溜息をついてのろのろと次の本に手を伸ばす。
すると隣から手が出てきて、俺の分の本を数冊とっていく。

(・・・訂正、ケチやのうて天邪鬼やな)

ジッと先輩を見れば「・・・見とらんで早よ自分の分やり」とこちらを見ずに言いつつ作業を続けていた。
そんな先輩をとても面白く思いながら俺も自分の分の作業に戻る。
図書室には相変わらず人は来なくて、黙々と二人でカバーをつけているから俺らが作業してる音だけがこの空間に響く。
さらに先輩との時間はゆったりと流れていて過ごしやすい。
こんな時間が、ほんの少しだけ好きだ。











「財前くんはちょっと失敗するけど一人できんことはないんやから私が来る前に少しでもやっといてくれればええのに・・・」











そう呟く先輩の横顔を横目で見て、俺はまたブッカバーと本との間に盛大に空気を入れた。
本に大きな空気の膨らみができて「おお」と声を漏らすと、先輩がふとこちらを向いてキレる。(のは言うまでもないやろ)
今度もまた空気の入った本を先輩に渡し、喚く先輩にあえて反応せず自分の作業を続けた。
そして、思うのはさきほどの呟きに対して



(あんたと少しでも一緒に居たくて仕事をやらなかった、とか言ったらどんな顔すんのやろな)



ということだった。
本当に先輩のことを考えると、面白くて飽きなくて退屈しなくて・・・好きだ。












膨らむのは、空気の玉か、俺の想いか、























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アンケにて
財前:日常的:先輩設定
ありがとうございました!