「・・・」

「・・・」









お互い無言で、静かなこの空間。
・・・いや!!静かではない。
光がひたすら携帯をいじる、カチカチとした音だけが聞こえてる。
ちょ、おま、お前も日直なんだから仕事しろよ!
とか思ったけど、さっきジャンケンで負けた方が日直の仕事全部やるって決めたんだよなー・・・言わずもがなそんなこと言い出したあたしが負けたんですけどね。









「ハァァァァ」

「・・・」









わかりやすく聞こえやすく大きな溜息吐いてみたけど、光さんスルーですね。携帯から目を離しませんね。この携帯依存症め!
ふとシャーペンを握る自分の手を見てみると・・・あ、爪が黄色いってさっきミカン食ったからか。って、今は関係ない。
そうじゃなくて、日誌の日直コメント欄。
自分の分は書いたけど・・・光んとこどうしよ。
適当でいい?いや、むしろ面白いコメント書いちゃう?
語尾に『だっちゃ☆』とかやっちゃう?
・・・後日あたしが殺されるの目に見えてるから止めようか。
光ってば怒ると部活中にあたし目掛けてボール打ってくるから困るんだよね。(ちなみにあたしテニス部のマネジという雑用係!)
まぁ一番質悪かったのはあたしのメアドを出会い系に登録しやがったんだよな。アレは本当に酷かった。
毎日知らん奴からのお誘いメールだからね!ま、ある意味モテモテ気分を味わえたけど!
・・・うん、とりあえず光のコメをいただこうか。
机を挟んで前に座っている光がいじり続ける携帯を・・・前から手を伸ばしパタンと閉じてやった。









「っ・・・、何すんねん」

「日誌のコメ書いてくれへんと日直の仕事完了せえへんのや。せやから、はい」

「そんなんお前が適当に書いとけばええやろ」

「じゃあ・・・『無事日直の仕事できたんだっちゃ☆』でええんやな」

「しばくで」

「せめて疑問詞つけて」

「しばくで?まぁ断ってもしばくけどな」

「ちょ、おまっ」









せっかくあたしが閉じてやったというのに、携帯をまた開いてカチカチと弄りだす光くんにこの上ないくらいの殺意が湧き上がった。
なんかこれ以上言っても無駄だと思ったあたしはしょうがなしに光のコメントを書くことにする。
なんて書こうかなー普通に「日直の仕事できた」じゃつまらんもんなー。
ここは四天宝寺の一生徒として・・・面白いこと書かないとダメだろ。
あたしのは今日の授業で古典の先生のカツラが風に靡いて海草みたいだったことを詳しく書いたし・・・あ、そうだ。
ちらりと光の方を見る。よし・・・奴は携帯に夢中だな!やるなら今ですよね!
自分で書けば良かったものの、あたしに押し付けるからいけないんだ!
いやまぁジャンケンで負けた結果だから仕方ないっちゃ仕方ないけど、コメントぐらい書いてもいいだろう!
そんなわけで、日頃の恨みも込めて・・・光くんのコメント書かせてもらいますか!!









『今日は一緒に日直をやっていたさんが僕の代わりにほとんど日直の仕事をやってくれました!ああ彼女はなんていい人なんだろう! 可愛いし綺麗で優しいなんて完璧すぎると思います。まったくもって僕は彼女には敵いません。ホント彼女と比べたら僕なんてミジンコです。 携帯ばっかいじって目が悪くすることに夢中になって・・・本当に僕はダメ人間だ。生きててすみません。そんな僕は明日から授業中に寝たり隠れて音楽を聞いたりするのを止めようと思います。 僕はさんのように素敵な人間になるんだ!    財前光』









ん、ええ感じ!
ニヤリと内心どころか顔にも出しながらあたしは日誌を閉じた。完っ璧!
いまだ気だるげに携帯をいじってる光の姿を見ると、フフと笑いが漏れる。だって何にも知らないんだぜコイツ。フフ。









「・・・なんやねん」

「えっ何でもないでーあ、日誌書き終わったんや!さ、部活行こうか!」

「おい、なんかめっちゃ嫌な予感すんのやけど・・・、日誌見せろ」

「え?何のこと?私わかんないわ。じゃ、これ先生に届けてくるわ!早く部活に行くのだわ!」

「ちょ、言葉おかしいやろ!待てっちゅうに・・・っのアホ女!!」









日誌を持ってダッシュで廊下を駆けて行く。
悪いけど光に足の速さで負ける気がしない。
フハハ、伊達にあのテニス部で雑用してないっつの!
だけど持久戦に持ち込まれると即死するのであたしは先生がいる職員室までノンストップで行くことにした。
光に追いつかれる前に行ったるでー!!











「ぃよーし、あとちょっ、ったァァァァ!!!









あたしの視界にやっと職員室のプレートが見えた。
そう、本当にあと少しの距離だったんだ・・・なのに、頭に強い衝撃が走り前にすっ転んだ。
あまりの痛さに半泣きになりながら顔を上げるとコロコロと転がるテニスボールが見える。
・・・ヤバイ、そう思って立ち上がろうとした私の背中にどしりと重いものが乗った。









「ちょちょちょ背骨折れるんですけどォォォ!」

「喧しい。ほれ、それ寄越し」

「げっ・・・って光さんこわっ!テニスラケットは下ろしましょうよ!」

「ええから寄越せ言うとるやろ。それとも何や?はこれでぶっ叩かれたいんか?」

「滅相もごぜいません!!はい!これはい!渡すから早よどいてな!」









頑なに渡すまいと抱き締めていた日誌を光に渡す。
この子バイオレンスすぎるんですけど!
しかも渡したのにどいてくれないし!なんなの!?
手足をバタバタさせてみるけど頭をデコピンされたので大人しくすることにする。
光は優雅に足を組みあたしという名のイスに座りながら日誌を読んでる。このやろ・・・。
・・・ってあら?これってまずくない?
光が持っている日誌はあたしがさっき面白さを追求した結果のコメントが書いてある・・・光の欄に。
これ光が読まないと思って書いちゃったんだ、ね・・・・・・ってことはまずくない?本気でまずくない?
今更ながら、事の重大さに気付いたあたしはぶわっと汗を吹き出す。
あたしの上でパタンと何かが・・・いや、日誌を閉じる音がした。その音があたしの終わりを告げたように聞こえた・・・ハハッ笑えない。









「ほう・・・俺がのようになりたい、やって・・・?」

「てへり」

「生きててすいませんなぁ・・・それ今から死ぬほどお前に言わせたろか?」

「ひ、ぎゃああ!本間すいません!!すいません!せやから日誌の角でグリグリは止めてくださいいいい!!」










あたしが書いたコメントは、どうやらマジで光を怒らせたようだ。
明らか目が笑っていない光が日誌の角を力の限りあたしの頭にぐりぐりと押し付けられる。
ばかやろっおまっテニス部レギュラーがここで本気の力を見せんなよ!
ハンパない痛みに鼻水を出しそうになりながら「あたしみたいな馬鹿が生きてて本間すいません!」と光に何回も言わされた。
そん時の光さんの表情は一生忘れないだろう・・・恨み的な意味でね!!
そしてさらにあたしの謝り続ける姿を携帯のムービーで撮りやがった。
極めつけに一言、「これ部長に見せたら欲しがるやろな・・・」・・・確かに白石先輩欲しがりそうだけどね!あの人あたし苛めるの好きだもんね!
額を廊下にくっつけて心の底から光に呪いの言葉を呟いといた。
本当にさァ・・・今に見てろよこの野郎!!













余所見は禁物
(何をしでかすか、わからないよ?)














‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
アンケにて
財前:ギャグ:携帯いじってるとき

ありがとうございました!