ふぅむ・・・おかしいな。
ここはどこだ?
家への近道を通ってきた、はずなんやけどなぁ・・・ここはどこだろう?
右を見ても、左を見ても、まったく知らない場所。
ううん、困ったなぁ。
今日は見たいドラマがあったから早よ帰りたかったんやけど。
まあそんな風にぼやいたところで自分の家の帰り道が出現するはずないので、しょうがないから来た道を戻るとする。
時間を無駄にロスしてもうた。これはきっとドラマは間に合わへんな。近道になんてしなければ良かった、
ふぅと後悔を溜息に乗せて吐き出し体を反転させる。
すると、そこには見知った姿がきょとんとした表情で突っ立っていた。
「?」
「そうやけど」
「なしてこないなとこに居るん?お前ん家は反対やろ」
幼馴染の蔵の一言に心底絶望した。
自分はとんでもない方向音痴なのか・・・。
近道とか思ってたのに・・・反対とか・・・ほんまアホや。
肩をおとし落胆したわたしの姿に蔵が小さく笑った。
きっとここに居る理由も落胆した理由も、わたしの落胆した姿でわかったのだろう。
「・・・なんや」
「いや、また迷子やったんやなって」
「またって言うな。わたしかて迷子になりたくてなっとるわけやない」
ぶすくれた表情で蔵を睨みつけるように見ながら言うと、蔵は「すまんすまん」と言いつつも顔に笑みを浮かべたまま謝る。
まったく反省などしていないだろう蔵にムカッとしたが、すぐにどうでもくなった。
ここは自分の家とは反対の場所だとわかったので今度こそちゃんと家に帰れると思ったから。
もう迷わない。まっすぐ反対に進もう。
とにかく早よ家帰って途中でもええからドラマ見よ。
「じゃあ、わたし帰るわ」
「え、あ・・・お、おう。気をつけてな」
「?うん」
わたしが帰ると言ったら、蔵が不自然にぎこちなくなった。
どうしたんやろ?とか思ってたけど、別に何も言わんからたいしたことではないのだろう。
そう思いわたしはあえて何も言わないまま蔵の横を通り過ぎようとしたのだが、ガシリ、と腕を掴まれ立ち止まった。
わたしの腕を掴む手をたどれば、なんだか何かをものすごく言いたそうな蔵がわたしをじっと見ていた。
「蔵?」
「・・・いや、最近あんま話せてへんなと思て」
「?そうやったっけ?」
「おん。やから、その・・・」
腕を掴んでまで引き止めた理由がよくわからず首をかしげた。
いつもはずばずばと言ってくるのにこんなにも言いづらそうにしてる蔵は珍しい。
大人しく黙ったまま蔵の言葉を待つ。
じっと見上げれば、蔵の頬がかすかに赤くなったような気がした。
気のせいか?
確かめるため額に腕を伸ばそうとしたが、伸ばす前に蔵が口を開いたのでわたしの動きはとまる。
「そのな、」
「うん」
「嫌やったら、諦めるんやけど、」
「うん」
「い、一緒に帰っても、ええか・・・?」
「・・・・・・別にええけど」
「っほんまか!?」
「う、うん・・・せやけど、一緒に帰る言うても蔵の家はわたしの家と正反対やんか」
「あ、ちゃうわ。送るやった。を家まで送ってもええ?」
こてんと首を傾げながら不安げにわたしに聞く蔵がなんだか可愛くて思わず笑いがもれた。
そんなに不安がらなくてもええのにな。というかこれを言うのに躊躇ってたのか。
そう思ったら余計笑えてきた。今更何を遠慮するんだ、と。
わたしは言葉で答える代わりに蔵の手をきゅっと握った。
「!?えっ、!?」
「ちっちゃい頃はよう手を繋いで帰っとったやろ?さ、行こかー」
幼稚園とか小学校低学年までは蔵とよく手を繋いで家までの道を途中まで一緒に帰っていた。
先頭は蔵で、いつも手を引いてもらいながらわたしは帰っていた気がする。・・・まあ、わたしが先頭じゃ迷子になる確率が高かったからなぁ。
今思うと、すごく懐かしい。蔵がテニスを始めてからこんな風に帰るのは本当に久しぶりだ。
昔とは違う蔵の手に少しだけ寂しくなりながら、今度はわたしが先頭を歩く。
蔵の手をひいて、昔とは違う、今を感じながら。
あの日と違うてのひら
(蔵の手、大きくなったなぁ・・・ってドラマもう間に合わん、けどまあええか)
(・・・ほんま、には敵わへんわ・・・)
(昔とは違う、小さな手に、俺はまた一段と彼女への想いを募らせる)