「ぶっはー!!ちょっ、おまっ、なんやねんその顔っ!!!」
「喧しいわ!!しばくぞ!!」
教室の入り口が騒がしい。
あの声は謙也とだ。
チラりと入り口へ視線を移せば謙也がゲラゲラと腹を抱えて笑っている。
はというと謙也の身体に隠れて姿が見えない・・・にしても謙也うっさいわ・・・。
あまりにも騒いでいるので気になった俺はそっと席を立ち、謙也達の方へ向かった。
そろりと謙也の肩越しにを見れば、でっかな白い湿布を右頬に貼り付けふて腐れてる。
って、確かになんやねんそれ。
「それどないしたん?えらいおっきな湿布やな・・・」
「あ、白石・・・おはよーさん」
「おん、おはよう。で、どないした?女の子が顔に怪我って・・・あかんやろ」
「お前のことやからどっかで派手にすっ転んだとちゃうん?・・・ぶっ」
「・・・謙也しばくで本間に」
謙也はそないなことばかり言うてるからモテへんのやで、という言葉を飲み込んでを心配する。
本人は元気そうやけど・・・顔に怪我なんてよっぽどのことだろう。
謙也に笑われ憤慨してめっちゃ殴る蹴るの暴行を謙也に行っているを押さえ込み、とりあえず落ち着かせた。
そろそろ授業のチャイムが鳴り、先生がやってくる。
そうなったらゆっくり話もできない・・・ということは、この話を深く聞くには昼休みがいいだろうと判断した俺はさっさと席に座りなおした。
***
そしてあっちゅう間に昼休みに入り、謙也と俺とは机を寄せ合い素早く弁当を広げる。
食べながら楽しく談笑をしていたが、の湿布を見て思い出した。
おお、そやった、湿布のこと聞かんと。
今日の弁当もうまいとかそんな話をしていて忘れていた。
ほどよい感じに今の話題が区切りがついたところで先ほどの話題を出すと、
はお弁当の玉子焼きをもぐもぐと食べながら、談笑と変わらずのテンションでとんでもない爆弾発言を投下した。
「あーこれなー!光に殴られたんよー」
「ははっえーなんやそ・・・は・・・え?」
「え、・・・ほ、本間に?え、本間に言うとんのそれ」
「おん」
相変わらず弁当を食べる手は止めずに、いたって平然にさらりと返答する。
今の発言に固まり完全に弁当をつつく手すら止まってしまった俺ら。
さっきまで大爆笑していた謙也は顔を引きつらせての顔を凝視している。
いや、え、湿布貼るほど殴られたって・・・ちゅうか、財前に殴られたって・・・え?
固まること数秒、最初に言葉を発したのは謙也だった。
「な、殴られたて・・・何したん?」
「んーまぁ色々あってなー」
「色々って!殴られるほどって相当やろ!喧嘩か?喧嘩したん?」
「しとらんで。アイツが一方的に切れてきて殴られた」
「はぁ!?そ、それDVやないん!?し、白石!お前も黙っとらんとなんか言え!」
謙也がヒートアップしてくのをこれまた平然と受け流してるにポカンとしながら見ていたら、
黙ったままで何も言わない俺に気付いた謙也がキッと睨みつけてきた。
あまり友人の恋愛事情に口出したないけど・・・こればっかりはしゃあないな。
後輩のためにもいっちょ口挟むか。
コホンと咳払いをして、箸をおいて、を見る。
もぐもぐと今度はおにぎりを食べていた。
「なんや」
「なんや、やあらへん。謙也も言うように、それDVとはちゃうん?お前は変に優しいとこがある。
もしかして今までも、俺らが気付かんかっただけでそういうことが何度もあったりとか、」
「はぁ?ないない。お前ら想像力豊かすぎんで!」
「あぁ!?お、おまっ俺らが心配して言っとるのに!何笑うてんねん!」
「せやで。これは深刻な問題や。顔を殴るなんて相当なことやろ」
「あーこれな・・・本間にたいしたこないんよ。喧嘩・・・うーん、あれ喧嘩言うんかなぁ?」
どこか煮え切らないの返答に謙也がまたプンスカと怒り出した。
俺も少しムッとしたが、は慌ててDVとは違うから安心せぇと笑って言ってきたので渋々だが俺はもう何も言わないことにする。
そらまだ言いたいことは山ほどあるけど、が大丈夫やって言うんなら大丈夫なんだろう。
俺はその言葉を信じて、後輩をシメたろうと心に決めて残りの飯をまた食べ始めた。
***
放課後。
殴られた経緯を曖昧に濁され、いまいちスッキリすることのできなかった謙也がプンプンとしながら部室へ向かう。
きっと財前に問い詰めるつもりやろうな。
まぁ俺もするつもりやけど、と思いつつ謙也の後ろを歩く。
大事な友達に怪我、ましてや女の子の顔を殴るなんて許せへん。
カップルだとしてもあかん行為や。
に無理に聞くことは出来へんが財前なら容赦なくできる。
ここは先輩と部長の権限を使わせてもらうで。
そうしてたどり着いた部室。
謙也が勢いよく扉を開けて、
「ぶっはっ!!おまっ!なんやその顔!ひっどいな!!」
「・・・・・謙也さんのいつもの顔よりマシですわ」
「あぁん!?どういうこっちゃそれは!!」
謙也は部室に入った途端、いきなり吹き出し笑い出した。
なにやらデジャヴ。朝もこうしてコイツは笑っていなかっただろうか。
ともかく財前がおってよかったわ・・・早よ話をせなと思い、謙也の後に続いて部室に入る・・・が・・・・。
「・・・なんやその湿布」
「別に。部長には関係あらへんので言いません」
ケッと最後につきそうな勢いで吐き出された言葉。
本間に可愛えない後輩やな・・・。
引きつりそうになる頬に無理矢理笑顔を貼り付け文句を言いそうになる気持ちを抑え込む。
あかんあかん、ここで怒ったら謙也と同等や。落ち着け、俺。
とにかく今は、財前の頬に貼られた湿布・・・左頬にと同じでっかい白い湿布をつけてることについて聞こうじゃないか。
「後輩がそないなでっかい湿布つけとったら気になるやろ。ほれ、何があったん?」
「・・・先輩にぶん殴られました」
「へーっに殴られ・・・はぁ?」
「あの人、女の癖に全く力弱ないねん。おかげでこないな湿布つける羽目になって最悪っすわ」
「・・・は?いや、ちょお待て、どういうことや」
「どういうこともないわ。今言うたやないっすか。謙也さん、日本語わかりますか?」
「わかるわアホ!!馬鹿にすんのも大概にせぇよ!いや、そうやのうて!え、なしてお前に殴られとんねん!」
「・・・それは、まあ、先輩らに言うことじゃないんで」
案外簡単に湿布の理由を言いジャージに着替えた財前はそそくさとラケットを持って部室を出て行ってしまった。
残された俺らはなんとも言えない空気に満ちる。
に殴られたって・・・・・・本間にどういうこっちゃ。
「・・・白石、アイツらって何がしたいのかようわからん」
「奇遇やな、俺も今そう思ったところや」
「殴り合いでもしたんか?」
「カップルでかいな。どんだけやねん」
「・・・せやな」
本当になんとも言えない空気の中、俺らもジャージに着替え部室を出る。
あのカップルはどっちもようわからん頭の奴等やから何が起きたのか全く予想がつかん。
何か喧嘩になって殴りあいに発展したのはわかった。
・・・わかりたないけどわかった。
まあ、二人とも仲悪くなったみたいなことはなさそうなので、この話はもう終わりにしようと思う。
忘れた頃に話題に出せばあたりがぽろりと話してくれそうやしな(財前は絶対口割らんと思うけど)
だが、やっぱりに怪我させたんは許せへんので、今日の練習試合の相手は財前にして徹底的に潰そうと思う。
んーっ俺ってなんて友達思いなんやろなー!
先輩は心配なんです。
後日、どうやら財前は俺達と仲がいいに不安を覚え嫉妬して殴ってしまい、
殴られたことによりキレたが全力で財前を殴り返したことが判明した。
それで仲良く二人の頬には湿布が貼られただとか(小春情報)
これをネタに可愛い後輩をいじり倒したのは言うまでもないだろう。
んーっ俺って本間後輩思いでもあるなぁ!