いつのまにか置いてかれてたのは誰だった。
捨ててきたのは、誰だった。
「ごめんね、雅治・・・本当にごめんなさい」
「何、を言っとるんじゃ・・・」
「雅治が満足できる女の子じゃなくてごめん。貴方の事を満たしてあげることができなくてごめんね」
泣いている女は嫌いじゃ。
泣いていれば同情をしてもらえるとでも思っとるんか。
いつもならその言葉が発せられるはずなのに、俺の口は全く動かない。
なんでそんなことを言うんだ、その言葉しか頭の中を巡らなかった。
触れたいのに、今彼女に触れたら彼女が壊れてしまいそうに手も伸びない。
「雅治が浮気してるの知ってたよ。でもね、それは私に魅力が足りないからだって思ったの。
だから私おしゃれとかもね頑張ったの。けど、やっぱりダメだったね。雅治に似合う女の子にはなれなかった」
雅治が興味を持ってくれるような女の子になれなかった。
静かに涙を流しながらは喋る。
俺はなにも、言葉が出てこない。
がそんなことを考えているなんて全く知らなかった。
俺にとっては何も言わず、ずっと側にいてくれるんだろうと思っていた。
俺が何をしていても、疎いは気付かずにただただ何も知らぬ純粋な笑顔を俺に向け続けるのだろうと、そう思ってて・・・。
だから、が俺から離れるとか、そんなことは想像なんて、
「なぁ、本気で言っとるんか?俺と別れるって」
「うん。これ以上雅治の邪魔になりたくないし、私がどんどん嫌な女になってくのも耐えられないの。本当に最後まで自分勝手なつまらない女でごめんね」
眉を寄せて流れる涙はそのままには笑った。
なぁ、お前はいつだって俺のことを考えていてくれとったよな。
そのお前のどこが自分勝手なんだ。
常に色々な話をして俺を楽しませようとしてくれた、お前のどこがつまらない女なんだ。
むしろ俺の方が、お前にとってつまらん男じゃったろうに。
浮気ばっかしてお前には優しいことなんて何一つしてやれずに、このザマだ。
なぁ、俺が今何を考えてるかわかるか?
今、ものすごく後悔しとるんぜよ。
お前が俺から離れていってしまうことに、恐怖すら抱いている。
その手を掴んで抱き寄せて好きだと言えばお前は俺から離れずにいてくれるか?
俺は最低な男で詐欺師だ。
浮気をしたのは、バレた時にいつも綺麗なお前がどう反応するのかと興味本位でしたことだ。
相手した女のことなんてほとんど覚えていない。
俺は・・・そうだ、俺は最初っからのことしか興味なんてない。
そう言えばお前は離れずにまた俺の隣にいてくれるか?
そこまで考え口に出そうとして、自分に呆れ果てた。
・・・ははっ・・・本当にアホすぎる。
今更そんなことを言って何の意味がある。
無駄、なのに。
そう、無駄なんだ。
・・・の目はもう俺になんて向いていない。
「雅治、私は貴方を出会えて付き合えて、すごく良かったよ。初めての彼氏が貴方で本当に良かった・・・ありがとう、雅治」
「っ・・・」
「ばいばい」
最後に優しい微笑みを残し、が俺に背を向け歩いていく。
進む彼女、残された俺。
動くことすらできない、言葉を発することすらできない、最後にお前の瞳に映った俺はどんな姿をしていただろう。
俺は、最低な男で詐欺師だ。
こんな気持ちも、偽りで、固めて、
「ははっ・・・なにやっとるんじゃ・・・」
・・・それで、誰が俺を見てくれる。
誰を騙すつもりなんじゃ。
もうそんな相手はいないのに、何を思って何を騙す。
冷たい何かが頬に伝うのを感じながら、離れていった彼女の名前を何度も繰り返し唱えた。