汗を拭くためにベンチにタオルを取りに行った際に、ふと、草むらにしゃがんでいる小さな背中を見つけた。 それが誰の背中かはわかっている。 だから、余計何をやっているんだろうという疑問が膨らんだ。 部長が俺を見てないことをいいことに、草むらへ足を進めしゃがむ背中に控えめに声をかけた。 すると、肩をビクつかせてからこちらを勢いよく振り返る先輩。 俺だと認識すると、息を大きく吐き明らかに安堵した表情になる。









「はー・・・なんや光かいな・・・ビビらせんなやー」

「俺ですんませんねぇ。ちゅうか、なにやっとるんですか先輩」

「え!や、べ、べべべ別になんもしてへんよー棒倒しなんてしとらんでー」









先輩の足元を見やれば、崩れかけの砂の山に立つ棒があった。 ・・・めっちゃやっとるやんけ。 大袈裟にため息をつけば、先輩の目はきょどきょどと泳ぐ。









「本間になにやってますのあんたは・・・・・・」

「うっ・・・・・・やって暇やってんしゃあないやん・・・」

「しゃあなくないです。先輩は暇なわけないやろ。マネジの仕事はどないしてん」

「飽きた」

「あんたマネジ失格やわ」









ぷくっと頬を膨らまして不満げな顔に俺はまたもやため息をつく。 あまりにも子供っぽいこの人に本当に俺の年上なのかと疑いたくなる。 でも、確かにこの人は俺より年上。 部長や謙也さんやホモップルや千歳先輩や銀さんを名前で呼び捨てだし、 彼女のことを慕ってる奴も多い。 適当で子供っぽいとこが多い先輩だけど、それでも、彼女はみんなに好かれている。 ・・・まぁ、そのみんなにはもちろん、俺も含まれていた。 なんだかんだいって、結構頼りになるところが先輩にはある。 そういうところが俺は好きだ。 そんなことを思いながら先輩を見てたら、目が合ってニコッと笑顔を見せられた。 何だが・・・嫌な予感がする。









「なぁー光ー」

「・・・なんすか」

「ドリンクはできてん」

「はぁ」

「せやからそれ運ぶの手伝ってくれへん?」

「知らんわ」











俺が冷たく切り捨てれば、彼女は顔を曇らせて「なんやねん光のケチ!うんこ!」と暴言を吐いてきた。 ちゅーか女が「うんこ」言うんはあかんやろ。 こちらがその言葉に顔を曇らせれば、先輩はぶすくれた顔で棒倒しを再開しようとする。 いやいやいや











「先輩、仕事」

「嫌や。ドリンク運ぶの大変やからやりたない」

「やりたない言うてもやらな怒られますよ?」

「光が邪魔したって言う」

「なんで俺やねん」

「そこに居るから」









なんて理不尽なんだ。 眉間に皺が寄るのを感じながら、ここは諦めて先輩の言うとおりにしてやることにした。 そうしないと、後で部長の小言がくるだろうと思ったから。それだけは回避したい。 ため息を零して、せめても腹いせに先輩がせっせとやっていた棒倒しの棒を蹴って倒した。 その際「ぎゃああ!」となんとも色気のない叫びが聞こえたが、 それはシカトで先輩が水のみ場で放置しているであろうドリンクの元まで歩き出す。


























なんやかんやで、
ほっとけない先輩です


(だが、無事ドリンクも運び終わり一安心で自分もドリンクを飲もうと思った瞬間に休憩時間は終了を告げた)
(とりあえず、あとで先輩には喝を入れとこうと思う)