今日という日は一日中いい日だと思っていた。 3月17日。 それは俺の誕生日。 3月に入ったあたりから「祝うからなぁ!」と色んな奴等から声をかけられていた。 もちろん、彼女からも笑顔つきで「楽しみにしとってな?」と。 そして迎えた本日3月17日。 朝起きて開いた携帯には、毎朝のメルマガより多い祝いメール。 家族からもおめでとうと言われ、食卓には俺の好物である牛すじ。 学校へ着いたら宣言されていた通り、色んな奴が朝から祝ってくれた。 ありがたい事にプレゼントもたくさんだ。 そう・・・こんなにも色んな奴等に朝から祝ってもらえてとても嬉しいのだが・・・、







「あ、あのー、?」

「・・・」

?なぁ?」

「・・・」

「・・・」








彼女にはシカトされ中である。 おかしい、こんな状況絶対におかしい。 昼休みも間近だ、一日の半分きました、彼女は俺を見もしない。 いい加減俺も泣きそうになってくる。 ちなみにシカトされ続け3日目だ。 何故こんなことになっているのかというと、事の発端はそれも3日前ホワイトデーの14日の出来事だった。





バレンタインに彼女であるから手作りケーキをもらった。 嬉しすぎて、もらったバレンタインのを色んな角度から撮影してたら何故かご機嫌ナナメのユウジに携帯を投げられたのはまだ記憶に新しい。 そんなわけで、そのお返しにホワイトデーはチロルを用意した。 一緒にバレンタインのお返しを買いに行っていた財前はありえないという顔で見てきたが、残念やったな去年チロルずっと食ってたくらいはめっちゃチロル好きやねん! やってきた14日の喜ぶ顔を浮かべて気分はうきうきだった・・・ここまでは。 いざに手渡したら「は?」と言われ、「え?」と答えたら、 「お返しがチロルとかあんたなめとるん?」とビンタしてきそうな雰囲気で言われ、思わず俺の動きが止まった。 え、あれ、おかしい?想像してたのと全くちゃうねんけど、え?? 固まったままでいる俺をよそに、トドメに一言「ねぇ、謙也?なんでもチロルやりゃ喜ぶとか思っとったら大間違いやからな」 暖かかった春の気温が一気に氷点下まで下がった瞬間。 とはいえ、はちゃんとチロルを持ち帰っていた。 まぁ持ち帰ってくれたことだしこれだったらすぐ機嫌もよくなるかなと予想をしていたが、 これも大きく裏切られホワイトデー翌日から、シカト。 俺の視界が薄ぼんやりしているのは気のせいではないだろう。 他の奴等(テニス部)に相談してみたところ親身に心配してくれる奴は一人もしなかった。 大半はため息で「そらお前が悪いわぁ」みたいな顔で俺を見て、 唯一一人だけ「リア充ざまぁ」と指差して言って鼻で笑ってきた(誰とは言わへんけど!)なんというか信じられない後輩だ。 でもまだ希望はあると思っていた16日の朝。 そんないつまでも怒っていないだろうと学校へ行って話しかけたらシカトされた。 え?あれ?まだ怒っとんのかいなーなんて軽い気持ちでめげずに何度も話しかけたが惨敗。 さらにはとんでもない現場を見てしてしまい、それ以来・・・俺は気が気でない。 今だってずっと気を張っている。 16日の昼休み、一緒に飯を食おうとあわよくばここで仲直りをと、一足早く教室から出て行った彼女のあとを追いかけてたどりついたのは・・・何故だかテニス部の部室。 不思議に思いつつも、がいるであろう部室の扉を開けようとしたら、とは別の声が聞こえる。 不審に思い扉に耳を近づけると・・・部室にいるのはと・・・なんと我がテニス部部長でありクラスメイトであり友達の白石のようだった。 なんで二人で部室?まぁ相手白石やったら堂々と入れるわ、と思った矢先、 聞こえてきたのは俺の心をめった折りにするには充分すぎる言葉で扉の前から動けなくなった。







『お願い、付き合うてよ白石』

『せやかてお前なぁ・・・』

『白石がええねん』

『・・・』

『お願い・・・』

『・・・・・・わかった。謙也には言うたらあかんで?』

『当たり前やん』







こ・・・・・・これは一体全体どういうこっちゃ・・・。いきなり何が起こったというのだろうか・・・。 浮気・・・?いやまさか!がそんなことするはずない! いやでも先ほどの言葉は浮気をほのめかすようなあああああ!!!ああああああ信じられへんし信じたくないわ!!!! 扉の前で頭を抱えてしゃがみ込むが、いつまでもそうしていられない。 あ、開けるか?この扉を開け真相を確かめるか? バクバクうるさい心臓を押さえつけ、扉に手を・・・――――――――――







『あ、そろそろ時間や。戻らへんと』

『せやな。俺も戻るわ』

『って一緒に戻るんは嫌なんやけど』

『そないなこと言わんでもええやん』

『怪しまれるわ』

『確かにな・・・ほなら俺はもう少し後で出るわ』

『おん』







近付いてきた声にくるりと反転、スピードスターの名に相応しい速さで俺はその場から逃げ出した―――――――
そして迎えた17日(二回目)。 それでもくじけず話しかけた。 浮気されてるかもしれない、そんな不安が何度も何度も頭の中を過ぎるが・・・俺の彼女はそんなこと絶対にしない。 は俺がたまに女子から声援を受けたりすると、「浮気するようなら死ね」と毎回真顔で言ってくる。 だ、だから絶対にしない! ブンブンと頭を振って嫌な考えを吹っ飛ばしてたら、先生に指された。 ・・・授業中なの忘れとったわ。 着々と時計の針は進みに進んで・・・、17日の放課後。 信じがたいことだ、信じられない・・・寝ていた。 口を拭って・・・机の小さな水溜りにちょっとした絶望感。 カバンからタオルを取り出してごしりと机を拭いたとき、机に影が落ちた。 ん?と思い顔をあげると少し緊張した面持ちのが立っている・・・只今、俺の緊張もMAXを越えた。







「話あるんやけど」

「あ・・・何の話なん?」

「ええから屋上までついてきて」








不安メーターが一気に振り切れる。 え、これは、ええ、俗に言う・・・「別れ話」の流れ的な、いやいやそんな、いやいやいやいや、!!! ガタンッ!!!!勢いよく立ち上がったらイスが倒れた。 が驚いた顔で俺を見てる。 そんなを見つめて、俺は手汗びしょびしょな手を握り締めて口を開いた。







「好きや!!のこと誰よりも好きや!!!」

「へ・・・!?」

「もう本間にどないしよって思うくらい好きやねん!!」

「えっえっ!?急にどないしたん!?」

「好きや!大好き!あ、あ、あ、愛しとんねん!」

「ぎゃー!あんた本間に急にどないしたん!!っちゅうかここ教室やで!?みんな見と、見んなボケー!!」

「好きやねん本間に!!!せやから別れたない!!」

「わ、別れ!?なんっでそないな話になっとんねん!!」

「やってお前!!」

「私!?私なにか言うたか!?」

「え!!い、言うてへんけど・・・」








ガーッとでてきた言葉は思わぬところで終息する。 まぁ・・・確かに何も言われてへんわな・・・。 教室に残っていた奴等が興味津々に俺らを眺めていたのを、顔を赤くしたが蹴散らしていく。 そうして教室には俺ら二人が残された。 とりあえず倒したイスを起こし、座る。 も俺の前の席に座る。 お互い向かい合わせだ。が溜息をついて額に手を当てる。







「で、さっきのなんなん」

「その・・・嫌な予感が過ぎってもうて・・・」

「嫌な予感ってなんやねん」

「その」

「うん?」

「その」

「うん」

「その」

「っええからさっさと話せや!!殴るで!!」

「っ別れ話されるかと思うたん!」

「はぁ!?なんやそのくっだらん妄想話は!なして別れ話せなあかんねん! 私が謙也と別れるわけないやろ!!アホか!ボケ!!」

っいった!!!」








最後のはいらなかった。 の言葉に感動したのだが、最後の最後に頭を思いっきり殴られもう本当に色んな意味で泣きたくなってきた。 地味に力あるから結構痛い。 殴られた頭をさすりながら、何はともあれ今日という俺の誕生日が最悪な一日になることは避けられたようだ。 別れるわけないか・・・へへ、嬉しいわ。によりと頬が緩んだ。 ・・・しかし、白石とのあの会話はなんだったのだろうか。 あの会話で俺は盛大に勘違いをしていたわけだし、・・・何よりもどうしてああいう会話になったのかが気になる。 意を決してに聞いてみようとすると、がカバンを持って立ち上がった。へっ?







「ほな行くで」

「へ?」

「さっき言うたやろ?屋上までついてこいって」

「あ、ああせやったな・・・え、なんで?」

「・・・あー・・・もう誤解せんように言うといたるわ。今から屋上でテニス部の奴等と謙也の誕生日パーティーすんねん」

「・・・俺の誕生日パーティー?」

「せや。今まで謙也にバレんように色々とみんなで準備すんの大変やったんやで?私とかすぐボロでてまうから謙也とは口利くな言われとったし」








あいつら私への信用度低すぎやねん・・・まぁ確かにボロは出るかもしれへんけどな、と照れくさそうにが言う。 じゃあシカトも怒っているからでは仕方なくで、あと、もしかして・・・昨日の昼休みに白石と話していた内容とはつまり・・・?







「あとな、謙也への誕生日プレゼント全然決まらんくてすんごい悩んでて・・・実は昨日白石に手伝ってもろて選んできたん」

「!!」

「気に入ってくれると嬉しいねんけど・・・ってそのプレゼントも屋上なんやけどな!」








早口にそう告げると教室の扉へと歩き出す。 やっとすべての誤解が解けて、渦巻いていた胸の不安も綺麗サッパリ消え去った。 は扉へ辿りつくとこちらを振り返り・・・・・・見たかった笑顔を浮かべ俺の名前を呼ぶ。







「謙也!言い忘れとったわ!チロルありがとう、おいしく食べたで!んで、・・・誕生日おめでとう!」







その言葉にぐにゃっと視界が滲む。 今日一日、たくさん祝ってもらった。 たくさんたくさん、おめでとうと言われた。 でも、一番何よりも誰よりも幸せな気分にもしてくれる「おめでとう」をくれるのはだ。







「これからも謙也のことめっちゃ好きやし・・・そんでこれから先も、ずっとずっと謙也のこと祝わせてな?」







そんなもん、当たり前やろ。 なんて答えは彼女を腕の中に閉じ込めてから言ってやろう。















3月17日。







(おっまえら!!いつまで待たす気やボ・・・・・・ボケェ!!お前ら屋上にこんと教室でイチャついてたんかー!!)

(!?ひ、一氏!?)

(ユ、ユウウジ!なしてあんたここに・・・!)

(お前らが遅いから迎えに来たんじゃボケナス!!)