みんなが朝の挨拶を交わすなかで聞いてしまった、とんでもなく衝撃的な単語。







「ちょっと早いけど白石くん誕生日おめでとー!」

「おお、ありがとう」







ちょっと早い・・・誕生日?おめでとう?






「あたし、白石くんに誕生日プレゼント持ってきてん!受け取ってー!」

「私も!」

「うちも!」







誕生日、プレゼント・・・?






「せや、ちょい早やけど白石誕生日ー!おめっとさん!」

「おーありがとうな」

「今日の放課後空いとるか?」

「あー・・・すまん、ちょっと・・・」

「あっ!せやな!気ぃきかんくてごめんな!」






席についたまま固まって動けない身体。 机に目線を落としたまま顔もあげられない。 すると机に落ちた影。






「おはよう、。その、ちょっと聞きたいことがあんねんけ、・・・どないした?具合でも悪いん?」

「っ、ご、ごめんなさい・・・っ!!」

「はっ、え、ちょっ、!?」






彼の声で身体が動き出し、気付いたら教室を飛び出していた。



付き合いだしたのはちょうど三ヶ月前。 何の変哲もない日常、教室掃除をしていた私に白石くんから告白をしてきた。 本当に突然すぎて、しかも相手はイケメンで有名な人だったから思考回路が追いつかず、 出てきた言葉が定番の
「どこに付き合えばいいですか?!」で今思い出しただけでも相当恥ずかしい。 そんな私に白石くんは面白そうに声をあげて笑っていて私はぶわっと顔が熱くなり、それに追い討ちをかけるように「くくっ・・・ちゃ、ちゃうよ、そうやのうて、っ・・・ふう。こほんっ。えーっとな、俺、さんのこと好きやねん。せやからさんと恋人同士になりたいっちゅう話やねんけど・・・どうですか?」 なんて言うものだから、さらに私は顔が熱くなり・・・多分白石くんの目には私の顔は茹蛸に見えていたと思う。 その時なんて言って返事をしたのかあまり覚えてないけど、とりあえず壊れた人形のごとく首を縦に振っていたのは覚えてる。 まあだから今白石くんと付き合えているんだけどね・・・ね、ってなのにね!!! か、彼氏の誕生日を前々日に知るってどうなの!?






「ど、どないしたらええの!!私彼女のくせして白石くんの誕生日知らんかったー!うわーん!」

「なして俺に相談しに来とんねん死ね」

「死なへんよー!やって一氏くんは白石くんと仲ええし、私も一氏くんとは仲ええから・・・」

「は!?いつお前と俺が仲ようなったんや!」

「えっなってへんの!?な、泣きそうや!!」

「そんくらいで泣くなやボケ!!あーもうっそんで俺にどないせいっちゅうねん!」

「一氏くん・・・!!」







やはり頼れるものは友達だ・・・!! 私が白石くんの前から逃げ出してやってきたのは一昨年去年と二年間同じクラスで仲良くしていた友達の一氏くんのところだった。 彼は口は悪いがとても優しい。 困ったことがあると文句は言いながらもきちんと相談に乗ってくれる(しかも金色くんがいると率先して相談に乗ってくれる) 白石くんとも同じ部活で仲いいし、一氏くんという友達は非常に心強い。 今回も一氏くんに助言をいただこうと駆け込んだ。 文句は言いつつもやはり相談に載ってくれる一氏くん・・・本当にいい人・・・!







「一氏くんには感謝しても感謝しきれへんといいますか・・・!」

「ええから早よ話進めろや。授業始まるで」

「え!わっ!白石くん誕生日やねん!」

「知っとるわ」

「え!せやったらなして教えてくれへんかったん!?

「そもそもお前が知らんことに驚きやったんから知るかボケ!」

「せ、せやね・・・彼氏の誕生日知らん方があれですよね・・・」

「凹むな鬱陶しい!!ちゅうか白石なんてお前が『おめでとう好き〜』の一言でどうせ満足するんやからプレゼントとか考えんでもええんとちゃうん?」

「な、何言うてん!!そないなわけないやろ・・・!そ、そんな私ごときの言葉で満足するなんて・・・!」

「いやいやアイツめっちゃお前にベタ惚れやん」

「ええっ!」







一氏くんの言葉に一気に顔が熱くなる。 い、いやいやいや!!!た、確かに白石くんに告白はされたけど、そ、そんなベタ惚れなんて、そ、そそそんな!! 信じられないやら恥ずかしいやら嬉しいやらで両手で顔を覆うと、目の前に一氏くんに舌打ちされてしまった。






「謙也んとこのアイツも面倒やけどお前も面倒やな・・・。あんな、白石のヤツ、当日企画してた俺たちの誕生日パーティー断ってお前とデートする言うてたで」

「へ!?そうなん!?」

「せやからお前が知らんかったいうのが本間に驚きもんやったっちゅうわけで・・・でもアイツまだ誘ってへんかったんか・・・ まぁむしろお前から誘われるんを待ってたんかもなー。あ、ちーなーみーにー俺たち企画は今日急遽やることになったからプレゼントかぶらんよう頑張れ」

「えー!」

「最悪、とりあえずプレゼント間に合わんでも、日付変わった瞬間におめでとうだけは言うたれよ。で、授業そろそろ始まるからさっさと帰れアホ。そしてもうここに来るなアホ。あとここに来たこと言うたらあかんからなアホ」

「ううう、一氏くんのがアホ〜!!」







シッシッと手で私をあしらって授業の準備をし始めた一氏くんに、恨めしそうな視線を教室を出るまで注いでから自分の教室に駆け足で入る。 入った途端、ジッと視線を感じたがそちらを向く勇気はなかった・・・。 いや、あの、その方向は白石くんの席がある場所で・・・自意識過剰かなとは思うけど、あの、見れない。 自分の席に座って俯いているとポケットが震えた。 もうやってきていた先生に見つからないようにポケットから携帯を取り出してこっそり確認。 そこには白石くんからのメールが一通。 『さっきどこ行ってたん?具合は大丈夫か?あと、明後日の日曜って空いとる?空いとったら俺とデートせぇへん?』 ・・・んきゃー!!一氏くんに言われた通りだ・・・! 誘われた・・・え、え、え、っと、おっけーだけど、えっと、白石くんの誕生日でしょ?デート、デートせぇへんって言ってくれてるけど、私から色々プランニングをした方がいいのかな・・・!? で、でも、そんなことしたことないし、そもそも白石くんが初めての彼氏だから、ど、どう、しよう・・・。 散々頭を抱えて打った返信は簡素なもので、『さっきはごめんなさい、トイレに行ってたん。具合は大丈夫です。日曜も空いてるのでデート楽しみです』友達に見せたら溜息だけされた。






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き、緊張してきた・・・。 只今の時刻4月13日の23:50。 ご飯もお風呂も済ませた。 ベッドの上で携帯を前に正座している。 日付が変更すると同時に電話をかけようと30分前から待機していた。 明日のデートの服も・・・い、一応プランも自分なりに頑張って考えた。 プレゼントは・・・明日デートの時に白石くんに直接聞いて買う予定。 一氏くんのかぶらんようにな発言で全く選べなかったのだ・・・。 携帯を見て、只今の時刻4月13日の23:57。 14日までいよいよ3分になった・・・。 誰かに先越されて電話が繋がらなかったら、もう寝てたら、怒られちゃったら・・・! ・・・と、想像したら手汗がすごくなってきちゃった・・・。 無難にメールのがいいかな・・・、じっと携帯を見つめてぐるぐると考えるが、58分・・・ついに2分前・・・。 っええい!いいや!!繋がらなかったら繋がらないでいいじゃないか!! どちらにしろ、明日は会うしデートだし!直接おめでとうを言えるんだし!! 携帯を手に取り電話をかける準備・・・59分。 ポンっと指を押せばすぐに発信され・・・・・・・・、えええ!? ちゃ、着信!?っ!??ぅえっ・・・うわあああ、







「もしもし!?」

『夜遅くにごめんな?起きとった?』

「ばっりばり起きとった・・・!」

『そらよかったわ』







画面が突如着信の画面になったと思ったら、そこに表示されたのは白石くんの名前。 59分、慌てて電話に出る。 少し声を抑え目に緩やかに喋る白石くんはなんだか新鮮だ・・・うん、こんな時間に電話するのが初めてだしなぁ・・・。






「白石くんも起きとったんやね」

『・・・まあ、明日が楽しみでなかなか寝つけへんってだけやけど』

「!!あ、そ、そうなんや・・・!私も明日たのし・・・っああ!!」

『!?え、どないした?』






明日・・・!! バッと携帯を耳から離し、時間を確認。 4月14日の00:02・・・! 2分も過ぎた・・・!! 電話越しの私の慌てように白石くんが心配そうに私の名前を呼ぶ。 ・・・こ、ここで沈んで放心してどうする!! 深呼吸をして気を取り直して・・・大好きな彼に伝えたい言葉を、ちゃん、ちゃんと言わないと・・・!






「し、白石くん!」

『お、おん・・・ちゅうか、さっきはどないしたん?大きな声だして・・・大丈夫だったん?』

「平気!え、えっと、本間は電話な、私からかけようと思ってたん。日付変わった瞬間にかけて・・・白石くんに誕生日おめでとうって言いたくて・・・」

『・・・そうやったんや。はぁ・・・なんや、せやったら俺電話かけ損やん・・・』

「え?」

『明日会ったら言ってもらえるんやろうなとか思ってたんやけど、、我慢できんかった。一番にに祝ってもらいたくて電話かけてもうた・・・』

「!!」

『なあ、俺、めっちゃ嬉しいわ・・・毎年毎年祝われてきたはずやのに、好きな子から言われるとこんなにも嬉しいもんなんやな・・・』







すごく・・・嬉しそうな声で、幸せそうに話す白石くんに胸がぎゅうっと苦しくなる。 私も、大好きな人を祝うのってこんなにも緊張して、なんだか幸せな気分になるなんて知らなかった。 明日会ったらまた言おう。 何回でも何回でも、彼が生まれてきてくれてありがとうの思いも込めて・・・。 ・・・欲張りを言うならば、この先へ続く未来でも白石くんのことを祝いたいな。 まだそこまで言う勇気はないけどいつかは言えたらいいなと思う。 それから少しだけ白石くんとお話をしてお互いが欠伸をしたところで、そろそろ電話を切ることにした。 白石くんのことをまた少し知れた。 こうやってちょっとずつでも彼のことを知れたらいい。 明日の、いや今日のデートでも、また彼のことを知れたらいいなぁ・・・。







「ほな、そろそろ切るね・・・白石くん、改めてお誕生日おめでとう。今日のデートめっちゃ楽しみにしとるね」

『本間にありがとう・・・俺もめっちゃ楽しみにしとるわ』

「おやすみなさい、白石くん」

『おやすみ・・・好きやで、ちゅっ』

「!?」







最後に告白とともにリップ音が聞こえ電話が切れてしまった。 携帯を耳に当てたままベッドに崩れ落ちる私。 ほ、ほ、ほ、本間になにしてんのもうー!!! 全身火だるまになったみたいに熱くて眠気なんて吹っ飛んでしまった。 バタバタとベッドの上で転がり回ってキャーキャーしてたら、般若顔の親が部屋にやってきて叱られたので、大人しく布団の中に入り込む。 うう・・・まだドキドキしてる・・・。 耳には優しくて愛しい彼の声と・・・リップ音が鮮明に残っている。 思い出してまた叫びそうになったけど、枕に顔を押さえつけなんとか堪えた。 はー・・・とにかく早く寝ないと・・・。 仰向けになって、アラーム設定をしようと携帯を手に取る。 さっきまでこんな小さな機械で白石くんと喋ってたんだなぁと感慨深く思いながら、携帯を見つめ・・・






「私も白石くんが好きです、・・・ちゅっ」






そう通話口に小声で告げ、小さくキスをした。















4月14日。
あなたを象るすべてに、ありがとう、そして愛してます。







(で、プレゼント何にしたん)

(ひ、一氏くん・・・!そ、それがね・・・)

(おーい!!移動教室やのになしてここにおんねん!早よ行くで!)

(うん今すぐ行くね蔵ノ介くん!あっえっと、またあとで報告しに来るから!)

(・・・来んでええわ、察したわ、せやから本間もう来んなやドアホ!!)