城島くんはとても可愛い人だ。 語尾とか呂律が回ってないところとか、 にかって笑うところも可愛い。 男の子なのに髪の毛にピン止めしてるし。 そして名前が犬だけに、ホントに犬みたいだ。 あぁなんて可愛いんだろ。 ちょっと騒がしい教室 それは今が昼休みだからだ。 男子は教室の隅でゲームをしてて女子は恋バナに花を咲かしていた。 そんな光景を退屈そうに眺めながら、ため息をついている女子が一人。私だ。 友達同士の恋バナとかそういう系の話にまったくもって興味がないので、私は今一人寂しく座っている。 まるで友達がいないみたいだ。うわっ悲しい。 大親友のでさえ恋バナで盛り上がってる。 …いや、私にだって好きな人はいる。 その人はとっても可愛い人。 でも、黒曜を支配してる不良グループの方でもある。 友達情報によると、結構強い…らしい。そうは見えないんだけどね。 そんな私の好きな人の名前は城島犬くん。 ほとんどの人はかっこいいとかの理由で好きなのは六道くんって言うけど、私は違う。 確かに六道くんはかっこいい。人気なのもわかる。 だけど、なんていうか六道くんって雰囲気が怖いからちょっと私は苦手なのだ。 ホントに顔は美形だと思うけど…。 はぁとため息一つ溢すと、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。 うわっ結局考え事だけで過ごしてしまったよ。 その事実にダメージを受けつつ、次の授業の準備を整える。 今日やる範囲は結構重要って先生が言ってたから、話をきちんと聞かなきゃ…。 とは思いつつ、私の目はだるそうに教室に入ってきた城島くんを見つめ続けていた。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 「はぁ…つっかれた」 長かった授業も終わり、残すことは帰宅のみとなった放課後。 肩を軽く回してから、鞄に教科書を詰めていく。 ふむ…家へ帰ったら何をしよう。まずは風呂掃除か…な。 ぼーっと、今日帰ってからの日程を考えていると肩をポンポンと叩かれた。 何気なしに振り返る。 「はい、なんです、か………っ!」 「なに帰ろうとしてんら?」 いやいやいやいや!! 何気なしに振り返った先には、なんと城島くん。まさかの、城島くん。あの、城島くん。 私の肩に手を置いて、いるのは…城島くん。 そう思うやいなや急激に顔が熱くなる。 絶対関わることないだろうなぁなんて思ってたのに… まさかこんな急に…!? 口を開けたまま固まってしまった私を見て城島くんは首を傾げた。 至近距離で見たこの仕草の可愛らしさに私は失神してしまいそうだ。 「おい?」 「あ…ご、ごめん……え、じょ城島くん?」 「…他に誰らった言うんらよ」 「え、はい、まぁ、そりゃ…」 きちんと確認を取りました。彼は本物の城島くんのようです…! 私は内心大嵐。どうしたものか…! だって、城島くんから私に話しかけてくれたんだよ!? 嬉しすぎて飛び跳ねてしまいたいくらいだ …まぁそんなことはできるわけないので、とにかく気持ちを落ち着かせる。 ふぅと息を吸い込んでから私の目の前にいる城島くんを見た。 すると、ふいに寄せられる眉。 え、 な、なんで!? 落ち着いたはずの気持ちはまたもやざわざわと騒ぎ出す。 とにかくどうしようっていう気持ちで胸が潰されそうになった時、 城島くんが面倒くさそうに口を開いた。 「今日、」 「…え?」 「今日、日直」 「え……誰と誰が?」 「俺とお前!」 「っホント!?ウソっえっ!?」 「んなくらいれウソ言ってろーすんらよ!!」 「あ、そ、そうだよね。ごめん」 うわっ!!なんてことだ! とんでもない事実を城島くんの口から聞き、驚いて何度も同じ事を城島くんから聞いてしまった。 その際に少しイラつきを含んだ声で返されてしまい、私は冷静さを取り戻す。 今日……本当に、なんていう日なんだ…。 城島くんと喋れただけじゃなく、日直という仕事まで一緒で…つまりは、放課後城島くんと一緒… 考えただけで、熱かった顔はさらに熱さを増す。 まったくもって今日の私はな、なんて幸運なんだ…!! ドキドキしながら、私は机に座って城島くんから日誌を受け取った。 私が日誌を書き、城島くんは黒板を綺麗にしている。 体の中で私の激しく鳴る心音が響く。 私は何か話そうと思ったけど、何話したらいいかわからず口を閉ざした。 いつもうるさい教室は放課後になればとても静かなもので…余計に緊張してしまう。 何度も日誌と城島くんの後姿を交互に見ながら、密かにため息をこぼす。 そしたら突然城島くんが独り言を溢した。 「ちぇっ…ゲームしたかったのに…」 「……な、なんか意外だね」 「んあ?何が?」 「いや、城島くん、日直の仕事なんてサボって帰るかと思って…」 「…」 私がそう言えば、城島くんは黙ってしまった。 …私なんかまずったかな…? 城島くんの後姿が固まった気がしたんだけど。 つか、本人目の前にしてサボるかと思ったって言っちゃまずいよね… そこで今更ながら自分の失言に気づき自己嫌悪に陥る。 頭を抱えたくなった直後、 ガタンっと音がした。 も、もしかして怒っちゃった…!? 冷や汗が流れてしまいそうになりながらも前を見てみると、城島くんが教卓に座っている。 「あの…」 「…確かにサボろうとした。だってめんどいんらもん。」 「あ、はは…だよね」 「けど、骸さんと柿ピーがやってけってうっさかったから…」 「へ、へぇー」 「あーあーマジ早く帰ってゲームしてー!つか、まだ日誌終わってないのかよ!さっさっとやれよな!」 「あっご、ごめん!あと少しだから!」 ギッと城島くんに睨まれたので慌てて作業を再開する。 どうやらもう黒板は綺麗になったみたいだった。 城島くんしか見ていなかったからそこまで気づけなかったや…。 私も早く日誌を終わらせないと! だけど、 早くやったら城島くんとあんま喋れないで、終わるじゃん。 こんなチャンス二度とないかもしれないのに…。 我侭だけどそう思ってしまった私の手は日誌を書く速度を落としていた。 せめて……また今度も話せるようなきっかけがあればいいのに… 彼と何も接点がない私が、この先関わることなんてきっとない。 そしたら、知らず知らずの内に私の口を開いていた。 「…城島くんっていつもどんなゲームしてるの?」 「あ?んー…格闘系がほとんど」 「そ、それって楽しい?」 「もち!…興味あんのか?」 「うん…ちょっと気になる、かな」 「ふぅーん……らったら明日持ってきてやろっか?」 「へ?」 「貸してもいいって言ってんらよ」 「ホ、ホントっ!?」 「だーかーら、なんれそんなんれウソ言わなきゃいけねぇびょん!」 「あ、うん。そうだよね…いや、えっと、嬉しくて…つい」 「お前変な奴……柿ピー並に」 「えぇ!?え、柿本くんって変なの!?」 「…んーまぁいろいろ変!」 そう言った城島くんは笑顔だった。 そんな城島くんを見た私の頬がゆるゆるになっていく。 あぁ今日はなんていい日なんだろ! 城島くんとたくさん喋れて、ゲームを借りる約束までして… すごい幸せ。 さっきまでのろのろと日誌を書いていた手が速度を上げた。 そんな、些細な出来事。 「。ほい」 「え?」 「昨日言ってたやつ」 「あ、ありがとう!」 「ん」 「あ!こ、こん中で使いやすいキャラとかいる?」 「使いやすいやつなー…そうらなー…あ、その紅いの使いやすい」 「これね?わかった!じゃ家帰ったら即やってみるね!」 「おー」 「えと、ホントにありがとう城島くん!」 「…おう」 「おや…犬、何があったんですか?」 「へっ?なにがれす?」 「犬が人に…それも女子にゲーム貸すなんて珍しいじゃないですか」 「あーいや、あいつ昨日日直一緒らったんれす。んで、俺の持ってるゲームしたいって言うから…」 「…へぇ」 「…なんれすか骸さん」 「いやいや、これは青い春の到来ですかねぇ…」 「は…?」