壁に寄りかかりながら座る私 左手はわき腹に添え、右手は力なく項垂れている 左手の指の隙間から血がダラダラと流れているのを感じながら、私は目を閉じた ボス、ごめんなさい。 私、あなたの元に帰れそうにないです。 手足が自分の思い通りに動いてくれなくて感覚がないんです。 まるで、私の手足じゃないみたいに ・・・ちょっと、息するのも苦しいです。 あぁ、せっかく新しいスーツを買ってもらったのに、これで台無しだ・・・ ごめんなさい、ボス。 あなたが買ってくれたのに・・・このスーツ、もう着れなくなっちゃいました。 ごめんなさい、ボス。 あなたとの約束を果たせずに、先に逝く私を許して下さい。 「ディー・・・ノ・・・ッ」 ごめんなさい。 あなたがこの場にいないことをいいことに、私はあなたの名を呼び捨てにしてしまいました。 あぁ・・・あなたの名を呼んだら、閉じた目の隙間から涙が出てきてしまった。 あなたへの愛しさが・・・止まりません。 ・・・私、死ぬ時はあなたの元で逝きたかった。 ははっ・・・私という人間はなんて欲張りなんだろう。 「は・・・ぁ、好き、です・・・ディー、ノっ・・・ぐっ、げほっ・・・!!」 好きです好きです好きです あなたがこんなにも愛しいです。 私にとってあなたは眩しすぎて届かぬ人で、とてもとても綺麗な心をもった人。 こんな薄汚れた私が一緒にいたいと思ってはいけない人だった。 はぁ、息を吐いてから瞼を薄く開け両手を空に伸ばす。 ゆっくりゆっくりと空へ伸ばしていく 私の両手は、空の色と正反対な紅色 「あ・・・きれ、い」 このあまりにも正反対な色にみとれていまう だんだん手が冷たくなっていくのが、わかった 指先の感覚が・・・もうない 腕もかなり痺れている 「ふふっ・・・そろそろ、潮時かな・・・くっ」 両手を急いで口元にもっていき、げほげほと咳き込むと、また両手が朱に染まった は、あ・・・ ヒュッヒュッと喉がなる 瞼が重くなり、再び瞼を閉じた 微睡む頭の中、私は任務前の夜の会話を思い出した 』 『はい、ボス。なんでしょう』 『今回の任務も大変だろうけど、必ず帰ってこいよ』 『えぇ、もちろんそのつもりです』 『あの、よ・・・』 『はい?』 『その・・・俺、な』 『はい』 『お、お前に・・・』 『はい』 『えー・・・っと』 『・・・』 『・・・っあー!!やっぱ、なんでもねぇ!お前が帰ってきたら言う!』 『え?あ、はい』 あの時、あなたは何を私に伝えようとしていたんでしょうか 何を私に聞いてほしかったんでしょうか 『帰ってきたら』 ごめんなさい。 そう言ってたのに・・・ごめんなさい、帰れなくて あなたが私に伝えたかったこと、聞きたかったです そして、私は・・・いつまでもあなたを敬愛していますと、伝えたかった でも、こんなことになるなら、 本当の気持ちを、 「あ、いし・・・・て・・・」 愛しています、と ただ、この一言を (私はあなたへの想いをこの胸に抱きこの空の下眠ります、)