「好きよ」
って、言ったら貴方は近くなるの?
私の想いは、救われるの?
そんなこと、私にもわからないけど、でも、わかることはこれは不毛な恋だということ。
「ディーノ」
「ん?」
「・・・随分傷だらけになってるわね?」
伝えようと想っても、伝えちゃいけない。
我慢して我慢して・・・その先には何があるのだろう。
誰もが幸せになれる終わりがあるのだろうか?
ディーノはソファーでくつろいでいた。
長い足を投げ出し、ぐでっとしている。
私が投げ掛けた言葉には答えず黙る彼の顔は、ここからでは見えない。
ドア付近で私は彼を睨んだ。
いつも私が来たら、ディーノはソファーから立ち上がり、笑顔で私の元に来てくれるのに今日は珍しく来ない。
それは先程私が言ったように、彼が昨日傷を負ったせいだろう。
彼をよく見れば、顔にはバンソコ。
服の隙間から白い包帯が見える。
包帯があまり目立たないように、私に見えないようにしているのだが、はっきりいって丸見えだった。
私の観察力をなめないでほしいわね、ディーノ。
あぁ、またこいつは無茶をしたんだなと一目でわかるわ。
何年あんたと一緒にいると思っているの・・・と心の中で彼に文句を呟く。
私は泣きそうになるのを我慢し、ディーノの後ろにある窓を眺めた。
私は彼・・・ディーノのことが好きだ。
狂ってしまいたいほどに彼を愛してる。
しかし、この恋を彼に知られてはいけない。
悟られてはいけない。
何故ならば、私はただの幼なじみでしかないから。
何故ならば、彼はマフィアのボスであって私はただの一般人でしかないから。
彼は優しすぎる。
故に私を苦しめる。
彼は優しすぎるから、私を突き放せない。
それを知っていて、尚も私は彼に会いに行く。
なんて醜く滑稽なのかしら。
元々、叶わぬ恋だなんて知ってるわ。
私が一番よく知っているの。
それでも彼を好きでいることは、罪なのだろうか。
「嬢」
「っ・・・あ、ロマーリオ」
私達の沈黙を破ったのは、いつもディーノと一緒にいるロマーリオだった。
ロマーリオは窓際の方からいきなり現れた。
それには思わず驚いてしまう私。
いや、でもよく考えてみると、いきなり現れたのではなく、元からいたのだろう。
ただそれに私が気付かなかっただけ。
まったく私はどんだけディーノしか見ていないのかしらね。
そんな自分につい呆れた笑みがでてくる。
「嬢?どうしたんだ?」
「あ、いや別になんでもないわ」
「そうか」
ふいに笑った私が余程おかしかったのだろうか、ロマーリオに心配された。
ディーノは相変わらず、私を見ないでいる。
ホント・・・イラつく。
私じゃ、ダメだっていうことを言われてるみたいで、すごく、嫌。
私は耐えきれなくなって、溜め息をついてからドアに手をかけた。
「ん?嬢帰るのか?」
「えぇ。ディーノはどうやら私と話す気はないらしいからね」
あぁ、なんて嫌な女なの?私は。
ディーノは私に心配されたくなくて、話さないだけなのにね。
わかってるに、わかってない。この矛盾の気持ちはどうしたらいいの?
また一つ笑いを溢すと、手に力を込めドアを開けた。
そして出て行く。
改めて、私って本当に嫌な女。
私がこうやって出ていくと・・・
「・・・っ!!」
あなたが追いかけてくるのを知ってる。(そんなあなたの優しさを利用してるの)
「なに?」
ディーノがこの先何を言うかわかっているのに、私は白々しく聞くの(あなたの口から聞きたくて)
「その・・・怒った、か?」
もう何回聞いたかわからないその言葉。
振り向くと、肩で息をしているディーノがいる。
私の元までくると、ディーノは綺麗な顔を歪ませて、優しく・・・まるで壊れ物を扱うかのように、私の肩を掴む。
肩を掴む手は微かに震えていて、あぁこの人はなんて愛しいんだろうと私は思う。
私はディーノの柔らかい髪に指を通す。
さらさらと私の指の間から落ちてゆく髪。
夕日に照らされて、綺麗に光っている。
あまりにもこの光景が美しくて、ずっと見ていたくなった。
ずっと、傍にいたい。
どうしてこんなにも、あなたを愛してしまったのだろう。
こんな胸が苦しくなるほどに、こんな息をするのも辛くなるほどに、
好きよ。好き。好きすぎてどうにかなってしまいそうなくらい
「ディーノ・・・」
「ん・・・?」
髪の毛に触れられるのをくすぐったそうに、目を細めているディーノの顔を両手で挟む。
その際、驚きながらもディーノは少し屈んでくれた。
そんなあなたも、愛しすぎる。
「あ・・・?」
このままあなたと口付けができたら、いいのに。
ちょっと近付けば、もうあなたの唇はすぐ目の前。
息をするのも忘れるくらいに、あなたと口付けをしたい。
何もかも忘れて投げ出して、私は、あなたを奪いたい。
・・・でも、私はそんな勇気もっていないから、
「早く・・・怪我治しなさいよ。」
「って!!」
油断しまくりのディーノのおでこに素早くデコピンを食らわすと、私はディーノに背を向ける。
後ろで多少の文句を言いながら最後に「また来いよ!」と言うあなたに手を振って、停めておいた車に向かった。
今日もこの想いを隠しながら、
私は帰る。
馬鹿みたいに
貴方を愛してしまった、
私を笑えばいいわ。
(なんで、私はこんなにも汚く、なんで、彼はあんなにも綺麗なのでしょうか)
(なんで、私は彼に出逢ってしまったのでしょうか)
(なんで、好きになってしまったのでしょうか)
(なんで、いくら考えても結局はあなたのことを想ってしまうの?)