「空、飛びたいなぁ」




窓の外に広がるのはどこまでも続く無限の青で。 あぁなんて綺麗なんだろうって思う。 ピーチクパーチクいいながら鳥は好き勝手飛んでて、たまに羨ましいけど憎くなる。 カツカツ、黒板を叩くチョークの音。先生の話は右から左へ流れてく。 私にとって授業はとことんつまらないものだ。まぁ、音楽とか家庭実習とか体育は好きだけどね! 使わない教科書と開いただけのノートが私の机に広がる。あーあ、あと30分もあるやぁ。 時計を見て外を見て。早くこんな退屈な時間終わんないかなーなんてシャーペンを回しながら思う。 すると、そんなことを思ってしまった罰なのか、先生が大きな声で私の名前を呼んだ。ちっくしょう




「おい!聞いてるのかー?窓ばっか見てないで黒板を見てくれー」

「はーい、先生」

「よぉし、聞き分けのいいにはもれなくこの問題を解いてもらうぞ!」




・・・ちっくしょうめ。 先生はムカつくくらいにいい笑顔で黒板を親指で後ろを指す。 ・・・ばっきゃろーめ。黒板なんてこの時間一回も見てなかった上に話も聞いてなかった私には未知の領域。 わーさらに教科は私が嫌いで嫌いで大の苦手な数学さんですか。あんまりだ、先生。私ができないのあんた知ってるだろ。 あーどうしよー。顔から変な汗が噴出しそうになりながら、急いで教科書とノートをペラペラとめくって見てみる。 おわわ答えが書いて・・・ねぇ!なんだとぉ!絶望的な気持ちで前を見ると先生が腕組んでニヤニヤしてる。ちっくしょおおおお!! 周りの視線も集まりやばいやばいと思い、顔を俯けた。そしたら右腕をつつかれてる感じが・・・ ちらっと隣を見ると、教科書を立てて先生に見えないように頭を低くしてこっちを見て口パクで何かを言ってる山本がいた。 え、なに、なんて言ってんの?首を傾げる私。山本は私に伝わってないことに気づくと、少しだけ声にして教えてくれた。




、あの答え9uだぜ!」

えっ、マジ?・・・・せんせーい!答え9u!」

「はい!不正解!

「えぇぇぇ山本ぉぉぉぉぉ!!!」

「ははっわりぃ!間違えちまったな!!」




何回目のちっくしょおおかわからないが心の中でそう叫ぶ。 なんて野郎だこの野郎!間違えた答えを教えやがって・・・!いや、元はといえば私が悪いんだけどね、うん! でも睨まずにはいれないぜ!!ギロっと隣を睨むと、爽やかな笑顔を浮かべながら「ごめんなー」という山本。 ・・・くそ、これだから顔のいい奴は嫌なんだ!そんな顔されちゃあ許すしかないじゃん! くっと、唇を悔しさゆえに噛み締める。山本はそれを不思議そうに首を傾げた。やめろ、なんか可愛いぞお前!




「まったく・・・そもそもな、山本に答え教えてもらうのが間違えだぞー

「そ、そうですね・・・」




そういってくる先生に苦笑いで返した。 はぁとため息をつくと隣で山本は相変わらず笑っている。 あーあー・・・机の上に散らばった教科書やらノートを綺麗に元の状態に戻す。 先生はもう黒板に向き直って、さっき私が間違えたとこの解説をしていた。 ・・・あ、ホントだ。答え9uじゃねぇや。チラっと山本を見ると、山本もちょうどこっちを見ていたみたいで目がばっちり合った。 え、なに?




「あのさー」

「ん?」




先生に見つからないように教科書を口元へ持っていき小声で山本と話す。 山本も教科書を口元にやり椅子に持たれた。




ってなんでいつも空見てんの?」




は?唐突なその質問に私は目を丸くした。 そして考える。うーん、いつも見てた理由ねぇ・・・。 首を傾げて、自然にまた目は空に向けられる。




「なんでだろうなぁ・・・気づいたら空見ちゃうんだよね・・・」




それは多分、 あんなに空は広くて自由なのに、どうしてここはこんなにも狭くて窮屈なんだろうと思っているからかもしれない。 でも、そんなこと言ったって、山本は「え?教室って結構広くね?」とかボケかましそうだから言わないけど。 空から山本へ、また視線を向ける。 「ふぅんそっか」と短く山本は言うと、ぐたーと机に顔を伏せた。




「なぁー」

「んー?」




机に伏せたため、少しくぐもった山本の声。 教科書を机に置き、頬杖をつく。先生は未だに話をしている。




「あのさー」

「うん」

ってさー」

「うん」




語尾を伸ばしながら、話したいのか話したくないのかわからない感じに山本は話を続けようとする。 シャーペンを再度回しながら、山本の話を聞く。




「俺、のな、空見てるときの顔すげぇ好き。」

「・・・・・・・・は?」

「なんか、好き」




回していたシャーペンは私の手からすっ飛んでいき、床へダイブ。 少し教室はざわざわしていたため、シャーペンが落ちた音はたいして目立たなかった。 いや、そんなことより、なんて言ったんだ、こいつ。 顔に熱が集まってくる。いやいやいや集まるなよ、熱!! 大混乱大噴火中の私の頭。何を言っていいのかわからず、口をパクパクしていると、落ちたシャーペンに山本が気づいてそれを拾う。




「ほら。落としたぜ・・・・って、あれ?なんか顔赤くね?」

「っ!あ、ありがとう!」




差し出すシャーペンを奪うように山本の手から取る。きょとんと目を丸くした山本。それから山本は「うん」と小さく返す。 席にがたんと座りなおし、山本は私に爆弾発言をしたのを忘れたかのように普通に前を向く。 私はそれを見てばっと顔を机に伏せ、残り何分かの授業をやりすごそうと思う。はぁあ、ため息が私の口から漏れる。 ドキドキ心臓が暴れまわってるのはきっと、気のせいだ。 引くことのないこの顔の熱も、きっと気のせい。顔を少しだけずらして隣を見やる。 頬杖をつき眠そうな眼差しで黒板を真っ直ぐ見つめる山本の横顔。 いつもはなんとも思ってなかった山本のその横顔が妙に、胸をむずむずさせたのは、どうしてなんだろうなぁ・・・。









本日も空は晴天なり








(今日も綺麗な空なのに、空ではなく山本ばかりを目で追うようになってしまった私は病気なんだろうか・・・?)