「・・・」





チクタクチクタクチクタク





「・・・」





今日はやけに時計の音が響く。いや、これは一昨日からだ。 何故だか、これが本来の応接室の静けさだというのに、さっきから僕は落ち着かない。 妙に色んな音に敏感になっている。特に応接室に近づく足音に。 近づいてくる足音があれば、どんな作業でも一時停止して扉を見てしまう。 そして扉がノックされるたび、落胆する。その度、ここに入ってくる奴らが不思議そうに僕を見た。 あぁ、やっぱり、なんかおかしい。





「委員長、どうかしたんですか?顔色が悪いですよ?」

「・・・うるさいよ。ほっといて」

「は、はぁ・・・」





机に肘をついて手の甲で俯く自分の頭を支える。すると、心配そうに草壁が僕に声をかけてきた。 僕はそれに対して素っ気無い返事を返す。ホント、嫌になる。 すごく、イライラする。ちっ、そんな自分に舌打ちをした。顔を少し上げ、時計を見る。 もう、時計の針は6時を指そうとしていた・・・さっき見たときは4時過ぎくらいだったのにな・・・・僕はどれくらいぼーっとしていたのだろう。 手元を見ると、散らばっている書類たち。ほとんど手をつけていない状態。 ちっ、今度は大きな舌打ちをしてしまった。あぁ、これは最悪すぎる・・・。 僕は横にかけていた鞄を手に取ると、書類を折れないようにいれていく。





「委員長?」

「帰る。これは家でやってくるよ」





少し慌てた草壁にそう言うと、僕は立ち上がり早々と応接室から出て行く。 応接室の戸締りは草壁に任して。僕はイライラする気持ちを抑えながら早足で廊下を進む。 途中、僕を見て怯えていた奴らがいたから咬み殺しといた。でも、このイライラは収まらない。 はぁ、しまいにはため息が出始めた。もう、なんだって言うんだ・・・。










・・・」





昇降口の前でふいに僕の口から零れ落ちた、名前。 そこで理解する。・・・あぁ、そうだ、だ。彼女が、いないんだ。 彼女は、いつもノック無しで応接室にずかずか入ってきて(だからノック音を聞いて落胆した)、 いつも大きな声を応接室に響かせながら喋ってて(それがないから妙に時計の音が響いたんだ)、どんどんイライラしていくこの気持ちも(彼女に会ってないから)。 そう、すべて彼女。あの子が僕のこの、沈む気持ちの原因だった。 そういえば、一昨日からは応接室に来ていない。学校には来ているんだけど、何故か応接室には寄らずすぐに帰ってしまっていたんだ。 そのせいで・・・僕はイライラしていて・・・・はぁ、まったくどうして、僕は・・・・・・あんな子のことを好きになってしまったんだろう。 おかしいよ、おかしすぎる。僕はこの気持ちを否定しながらも、この気持ちは止まることを知らなくて、いつの間にか駆けていた。







「はぁ・・・っ」





全力疾走で走る。僕の足が向かっているのは、きっと、いや・・・絶対に彼女の家。 ポケットから携帯を取り出すと、すぐさまの番号を押す。プルルル、携帯が発信を始めた。 (早く、出ろ・・・っ)息が珍しく上がる。普段なら、こんなことじゃ上がらないのに・・・、そう思っていたら4コール目に電話が繋がった。





「あっ・・・!」

『もしもーし?雲雀さん?なになにどーしたんですか??』

「き、みこそっ・・・なに、してんの・・・!」

『へ?あれ?なんか雲雀さん苦しそうな声してません?』

「そりゃ走ってるからね・・・っ」





携帯から届く声はいつも以上にアホな声。それに熱くなるものを感じながら、会話を続ける。





『走ってる?なんかあったんですか?』

「君の、家に向かって、だよ・・・!はぁっ、っ!」

『・・・・雲雀さんのはぁはぁってなんかエロイですね』

「なに馬鹿なこと、っ言って・・・」





そんなことを話しているうちに、僕はの家の前に着く。上がる息をお大急ぎで整えて、乱れた服装を直す。 携帯ではが馬鹿なことを相変わらず抜かしていた。





『お?雲雀さんなんだか落ち着いてきましたねーマラソン終わったんですか?』

「僕マラソンした覚えはないんだけど。」

『だってめっちゃはぁはぁ言ってたじゃないですか』

「はぁはぁ言ってればみんなマラソンしてると思うなよ」





その言葉を言ってから、彼女の家の呼び鈴を鳴らす。ちょっとした嫌がらせで、10回高速でボタンを押した。 そしたら『あ、誰か来たみたい・・・ってピンポン押しすぎ!誰だし!あ、ちょっと見てくるんで少し待っててくださいね』と言うとは携帯から離れた。 そこで、思い浮かぶのは彼女の顔。玄関を開けて僕がいた時の彼女の驚く顔を思い浮かべると笑えてきて少し緩む頬。 パタパタと慌しく玄関の向こうに聞こえる足音を聞いて、緩んでいた頬をすぐ引き締めた。 何も聞こえなくても繋がってる携帯をサッと切ると同時に開く玄関。





「は、あ・・・え、へ?」

「やぁ、会いに・・・来たよ」





玄関から顔を出した彼女は予想したとおりに、大きな瞳を見開いて僕を驚きの表情で見つめ固まった。 僕はその表情を見て、引き締めたはずの頬が一瞬にして緩むのを感じる。 あぁ、たった2日会ってなかっただけなのに、な・・・すごく懐かしい。 広がるこの胸の温かなものは、僕に必要なのかはホントにわからないけど、とても気分がよくなることは確かで。 だから、
























いつからか、君は僕の酸素のように
必要不可欠な存在と化していた。

(だから・・・僕の隣にいてよ、と柄にも無く願う僕がいる)






















(・・・で、いつまで固まってるつもり?)(ハッ!え、ええええ!?雲雀さん!?なんで!?)(別に、暇だったから。) (なに言ってんですか!もうこの時間は夕飯の時間ですよ!!帰んなさい!) (いいよ、今日は君の家で食べてくから。)(ええなんて迷惑なこと抜かすのあなた!ダメですってホント!)(・・・なんでよ) (だって私には今祐一先輩を落とすという使命があるんですから!)(・・・は?(祐一先輩?誰?) (一昨日から頑張ってやってるんですよ!一日二人ペースでやってて、今日でやっと全員落とし終わるんです!) (・・・・・・・ごめん、何の話?)(え、乙女ゲームの話ですよ?)(乙女、ゲーム?)(はい!まぁ、所謂、恋愛ゲームのことですね!) ((・・・)・・・・君死ねよ)(は、えええええ!?なんで!?)(・・・はぁ、もういい。絶対今日は君の家で食べることにするよ) (いや、だから、祐一先輩が・・・!)(うるさい、食べる。(彼女が僕をほっとく程夢中になってる奴を見なくてどうするって言うんだ いやその前にその乙女ゲームとやらを破壊した方がいいと見た))