怖いんです。ただそれだけ。
私は彼が怖い。
私がボンゴレについての書類を整理しているときに、感じる寒気。視線。
勢いよく後ろを振り返れば、扉に凭れ掛かってる白蘭様がいた。
ああ、またあの目だ・・・。私を見る、あの冷えた瞳。
「何してるの?」
「・・・しょ、るいの整理、です・・・」
「ふぅん・・・」
カツリ、私へと近づいてくる足音。
白蘭様が一歩一歩近づいてくるたびに心臓がひゅっと締め付けられてきて息が苦しくなる。
怖い・・・。
笑顔を貼り付けて何も言葉を発せず、ゆっくりとした歩調で私の目の前までくる白蘭様は、
私にとって恐怖以外の何者でもない。
皺ができるくらいに書類を握り締めていた手に、白蘭様がそっと手を伸ばす。
「ッ!!」
「そんなに強く握ってたら大事な書類がしわくちゃになっちゃうよ?」
呼吸が一瞬止まって、心臓が慌しく鼓動する。
白蘭様に掴まれている手の体温が徐々に冷たくなっていくのがわかった。
「ねぇ、チャン」
「は、い・・・」
「なんで震えてるの?」
言われて気づいた。
息を乱すだけではなく、異常なくらいに肩を震わせている自分に。
私は半歩後ろにさがった。
少しでも、白蘭様から離れたかった。
だけどそれはかなわない。
強く掴まれている手が、もう私のではないみたいに動いてくれないのだ。
「ねぇ、チャン、」
「っ・・・」
「どうして僕から離れようとするの?」
「ぁ、」
「どうして、僕と目を合わせてくれないのかな?」
「も、申し訳ござい、ません・・・!」
「どうして?なんで謝るの?」
白蘭様が俯き気味の私の顔を覗き込んだ。
ふわりと揺れた髪の毛に、涙がこぼれそうになる。
やめて、やめてください・・・。
そう言って、この人から離れたい。
笑顔なのに、全然笑ってない白蘭様が怖くて仕方が無い。
瞳が、すべてを支配するかのような光が嫌だ。
「ホント、チャンって」
そう言いかけ、白蘭様の指が私の頬をすべる。
ぞわりと、背中が粟立った。
吐き気さえ覚えるこの感じは、なに?
固まって動けずにいる私に対して、彼の指は楽しそうに私の横髪を弄ぶ。
そして、
「っ・・・!!!」
ふいに髪を強く引っ張られ、動けずにいた私はいとも簡単に彼の腕の中に閉じ込められた。
あまりにも突然のことだったので痛みと驚きで手に持っていたくしゃくしゃの書類を床に散りばめてしまった。
彼の腕の中、自分の心臓が嫌な音を立てて鼓動する。
密着している体を少しでも離そうと腕で彼の体を押すが、ビクともしない。
「無駄だよ。そんな力で僕を離せるとでも思ってる?」
「、は、離れてくださ、い・・・!」
「ふふっ本当にチャンは、可愛くて・・・愚かで、惨めで、とことん虐めたくなるね」
耳元で白蘭様が、優しく、残酷な言葉を吐く。
微かに吐息の交ざるその声は、なんていう毒を含んでいるんだろう。
私は震えながらも、彼の顔を恐る恐る見た。
そこにはいつもとは違う、冷めた瞳でない、どこか熱を含んだ瞳があった。
その瞳を見た瞬間、我慢していた涙が私の頬をすべり落ちていった。
次々に、私の涙腺は壊れてしまったのかと思うくらいの勢いで流れていく。
それとともに、私は彼の体を先ほどとは違い、強く押した。
離れたい、離れなきゃ、離れないと・・・!
本能的に私のすべてが彼に恐怖を強め、拒絶している。
だが、どんなに強く押しても彼の束縛は緩むことがなかった。
むしろ、どんどん私を抱き締める腕に力を込め、息がし辛くなった。
「や、やだ・・・っはな、離してください・・・っ」
「・・・いいね、その顔。すごくそそるよ」
楽しそうに歪む口元。
もう一度、「離れて」という前に私の口は彼に塞がれた。
頭が真っ白になって、私の力が抜けていく。
すべてを奪い去るような、苦しくて苦い、口付け。
嫌な水音が私の鼓膜を刺激する。
それから、私の頬に流れた涙を辿るように這う白蘭様の舌の気持ち悪い感触がした。
そこで、私の思考は途絶えた。
「Divenga squishiness per me.」
(僕のためにぐちゃぐちゃになってよ)
逃がさないよ、逃がすわけない、僕の大切な、大切な、玩具。
キスだけで、気絶。じゃあ、これ以上のことをしたらどうなのかな?
そう考えたら、・・・楽しくてしょうがなくなった。