「ばかああああ!!」
「いっ・・・!?」
仕事が終わって、久しぶりにイタリアに戻ってきた。
今回は結構面倒な仕事だったので、数ヶ月くらい家をあけていた。
だから、今日はゆっくり休もうと思ったのだが、俺が家の扉を開けようと手を伸ばしたところで、
先に扉が開き大きな何かが腹に飛び込んできた。
不意のことだったのでうまく抱きとめることができず、俺は後ろに倒れる。
ガンッと腰を地面打ちつけ、ちょっ、これはやばい・・・!!
あまりの痛さに本気で泣きそうになる。腰砕けてたらどうしよう・・・。
軽い恐怖想像しながら、俺の腹でぶるぶる震えているやつに手を伸ばした。
「つぅ・・・え、えーと、?」
「うー!!」
頭を撫でて名前を呼んだら、俺の胸をポコスカ殴りだした。
顔を腹に押し付けているので、非常に息がし辛い。このままじゃ違う安息がきそうだ。
大きく息を吸い込み、痛む腰を労わりながら肘で体を支えて上半身をあげる。あーマジでいてえ。
「おい、?どうしたんだ?」
「うー!!」
「うー、じゃわかんないぜ?」
尚も俺の胸を殴っているを宥めるように頭を撫でるも、やめる気配がない。
なんだろう・・・俺、なんかしたか?
考えてみるも、に会うのも久しぶりなわけで・・・何かしたとかそういう記憶はまったくない。
なら、なんだ?
浮かぶ疑問に首をかしげても、何の解決にもならないので今はとりあえずに顔をあげてもらおう。
話はそれからだよな。やっと、会えたんだ。きちんと顔を見て話したい。
「。顔をあげろって」
「やだー!」
俺の言葉に対してぶんぶん首を振って、顔をあげることを拒否する。
弱った・・・俺どうすればいいんだ?
いつまでも家の前でこうしてる場合じゃないし・・・。
そう思ったら、ため息が自然と漏れた。すると、の肩が揺れて動きが止まり、小さな手が俺をはなす。
「?」
「やだ、やだやだ!」
「ど、どうした?」
「ディーノ、行っ、行っちゃやだー!!」
その一言で勢いよく上げられた顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。
は子供のように大きな声で泣きじゃくる。その合間にも一生懸命俺に何かを言っていた。
だけど、残念ながら嗚咽がひどくて聞き取れない。なんてことだ。
必死にを落ち着かせようと背中を摩るも、の涙は止まらない。
困った、非常に困った。疲れた体は悲鳴を上げていて、を支えている体も間もなく限界を告げ、
また腰を地面に強打するだろう。あ、やばい、肘がつりそうだ。
「ーいい加減泣き止んでくれよ・・・な?」
「うっうっうぅー!」
「返事?それ返事か?」
「ううー!」
「違うのか!?」
そんな馬鹿なやりとりの中、少しずつだがが落ち着いてきた。
は深呼吸を繰り返し、目を真っ赤にして鼻をぐずぐずとさせながら俺を見上げてくる。
その姿は何故か、寂しがりやなうさぎを連想させた。
「ディーノ・・・」
「ん?」
「ディーノ、遅い」
「お、遅い?」
「私、ずっと待ってたのに、遅い」
「え、いや、悪い・・・え、なにがだ?」
「帰ってくるの!!ディーノ遅かった!!」
頬をパンパンに膨らまして、不機嫌を表す。
数秒固まった俺だが、ようやくの言いたいことがわかり、思いっきりを抱き締めた。
そして背中に衝撃。抱き締めるさい、両手を使ったためだ。馬鹿だな俺。
くっと腰の痛みに涙が出そうになるのをまたもや押さえながら、抱き締めた体を少しだけはなす。
は俺のことをずっと待っていたみたいだ。
いつもすぐ済ましての元に帰ってくるのに、今回に限ってすぐ帰ってこないのをものすごく心配していたのだろう。
の顔を見ればわかる。目元に隈があるから、きっと俺が居ない間よく眠れていなかったんだろうな。
そう思うと、が可愛くて可愛くて仕方なくなり、頭をグリグリ撫でてやった。
「わわっ!なに!」
「いやーは可愛いなぁと思ってな」
「かわいくない!」
俺の手を払って頬をまたパンパンに膨らましたを見て、ぷっとふきだして笑い出す。
が笑い出した俺にたいして怒ったが、いつまでも笑っている俺にもつられて笑い出した。
しばらく笑いあっていたが、があっと声をあげる。
「私、ディーノに言うことあった!」
「言うこと?」
の言葉を首を傾げれば、はにぱっと笑顔を作ると、一言
「おかえりディーノ!!」
と言った。
その言葉に一瞬固まる。
帰ってきた直後からのタックルにあい、なんだかんだで言われていなかった言葉だ。
だが、彼女に一番言って欲しかった言葉。
さっきまで怒っていて、さっきまで泣いていて、今は眩しいくらいの笑顔を俺に見せる。
俺は、その笑顔に負けないくらいの笑顔を作ってが望んでいる一言を返すんだ。
「ただいま、!」
おかえり、の温かさ
(久しぶりだから、いっぱいいっぱい甘えさせてね)
余談、後日腰を痛めた俺は三日間ぐらいまともに歩けなかった。