普段、あまり俺からは行かない屋上に彼女と二人、空を見ていた。
目を瞑りたくなるくらいの青空に、今日は少しの嫌気がさす。
彼女とともに寄りかかる壁はどこか頼りない。
それはきっと俺の揺らぐ気持ちのせいだろう。
横目で彼女を盗み見れば、俺を映さず前を真っ直ぐと見つめている横顔に胸が締め付けられた。
「・・・見てるだけでいいんだ」
「うん」
ぽつりと、彼女の口から零れ出た言葉は俺じゃない違う奴を思ってのこと。
今にも壊れてしまいそうな雰囲気を出す彼女に、また1つ俺の胸が軋む音が聞こえた。
「でも安仁屋くんと他の子が一緒にいるところを見ると耐えられないの」
「、うん」
「私、どうしたらいいかな・・・」
「うん?」
「髪、茶髪にしてお化粧したら安仁屋くんに話しかけても平気?」
「それは・・・その、さんはさんのままがいいと思う、よ」
「けど、今のままじゃ私きっとダメだよ・・・」
「そんなことないよ。俺は今のさんのが、いい」
これは紛れも無い俺の本心。
さんは、さんのままがいい。ありのままの彼女が一番可愛いんだ。
無理に変わって欲しくない。
いや・・・違う。
あいつのために変わる彼女を俺が、見たくないの間違いかな。
こんなの、自分の、自分勝手な想いを彼女に押し付けてるも同然だ。
そんな自分に嘲笑が漏れる。
「御子柴くんは、」
「うん?」
「優しいね・・・」
「え、いやっそんなことないよ!」
「あるって。だって今こうして私の話を毎回聞いてくれるじゃない」
「そ、れは」
「・・・だから御子柴くんは優しいよ」
さんの言葉が俺の心を突き刺す。
潤んだ瞳が俺を映すたび、心がかき乱される。
彼女をこのまま抱き締められたらいいのに。
それで、あいつを思う気持ちを忘れさせて俺でいっぱいにしたい。
ほら、さん。
本当に優しい人間だったら、そんなこと思わないよ。
俺、全然優しくないんだ。すごく自分勝手で自分の思いだけで精一杯だよ。
さんのこと応援してる、振りをしているだけなんだ。
いつだって君が早くあいつを嫌ってしまえばいいって思ってる。
でも、でもね、
「さん、」
「ん・・・?」
「安仁屋がね、染めてない黒髪っていいよなって言ってたよ」
「ほ、んと・・・?」
「うん」
「そっか・・・そっか!じゃあ、私やっぱりこのままでいるね!」
君が望むなら俺は優しいと思われる人間でいるよ。
俺の一言でさっきまで曇り気味だった表情が晴れやかになった。
今の空のようにどこまでも澄み渡っていて、とても綺麗。
ボーっと彼女を見つめていたら、彼女がくるりと俺のほうを向いた。
その顔には優しい微笑みを浮かべて、その瞳には俺を映す。
さん、と声をかければ彼女は自分の黒髪をいじりながら、
俺に最も残酷で泣きたくなる言葉を言うんだ。
「ありがとう、御子柴くん。やっぱり貴方は優しい人ね」
君だからこそ与えられる
優しさだと気付いて下さい
君にそんな泣きそうな顔をさせるあいつが憎い
君にそんな想われてるあいつが羨ましい
そんなあいつは俺の友達。
ねぇ、どうしたら俺は君に届きますか?