ザアザア、と窓の外から聞こえる音。
いつもは綺麗な青空が見えるはずなのに、厚い雲で覆われた空はなんとも重苦しい。
『あー・・・鬱』
少女はそんな外の様子にうんざりしたように言葉を吐いた。
ここ二、三日続く雨のせいで少女―――の機嫌は落ちる一方だった。
「って雨嫌い?」
『臨也並みに嫌い』
「なんだ、そんなに嫌いじゃないじゃん」
『お前ホントポジティブな』
の隣にいる少年―――臨也はの返答に爽やかな笑みを浮かべる。
臨也は見た目だけはすごくいいので女子にモテるが、
如何せん中身の残念さ加減を知っているはいくら臨也にアタックされても見向きもしない。
というより、にはすでに好きな人がいることも理由にある。
「そうそう、今日の家に行ってもいい?」
『断る』
「別にいいでしょ」
『無理。来たら刺す』
「こわーい。じゃあ、シズちゃんも一緒って言ったら?」
『グッジョブ。シズくんだけ置いて帰れ』
「・・・。まあ、嘘だけど」
『お前なんて今すぐ帰れ』
は臨也の方を全く見ることなく言い放つと、窓の外にむけため息をついた。
その時窓に映ったの顔はとても退屈そうにしている。
もうすぐで放課後になるというのに、やっぱり雨のおかげで気分は沈んだままのようだ。
こういう時、は思う。
(シズくんとイチャイチャしたい)
と。
しかし残念ながらシズくんこと静雄はの恋人ではないが。
はあ、と憂鬱気に再度溜息をついて、は担任の退屈な話と臨也のうざったい話を聞き流しつつHRをやり過ごした。
***
『・・・これは、ない・・・』
臨也は用があると言って珍しくに付き纏うことなくすぐに帰り、新羅もセルティのバイクの音が聞こえたと言って即帰ってしまったので、今回はと静雄の二人きりの帰りだった。
の心中はうっはうはだったのだが、静雄と帰ろうと下駄箱まで来た時には傘を教室に忘れてきたことを思い出し、静雄が待っていると言ってくれたので慌てて教室に戻ってきた。
だが、教室の傘立てには今日の朝差してきた自分の傘が見当たらない。
むしろ、傘立てには一本も傘がなかった。
はそんな傘立てを見て、がっくりと項垂れる。
心の中で傘を持っていった奴への恨み言を吐きまくっていたが、
とりあえず傘はないが静雄を必要以上に待たすわけにはいかずは急いで下駄箱へ向かった。
そんなことがあったとは知らず、走ってきたの姿に静雄が微かに首をかしげ、一言。
「傘、なかったのか?」
『・・・パクられた・・・』
「うわ、ねぇな」
『ちゃんと名前シール貼ってたのに・・・』
「うわ、それもねぇわ」
『あー・・・濡れて帰るとか、ない・・・』
しょぼくれたの横で静雄がふと自分の傘をじっと見つめる。
その傘は静雄でも大きいと感じる傘で、自分の隣にいるも一緒に入っても何ら問題はないだろう。
暫し悩んだ結果、今日は自分をからかってくるようなノミもいないし、生暖かい目で見てくる新羅もいないので、静雄は昇降口で傘を広げると、思い切っての腕を引き寄せ自分の大きな傘の中に入れる。
柄にもないことをしていると自覚しているが、が濡れて帰るよりはいいと思った。
(・・・けど、やっぱ恥ずかしいな・・・)
本当にこの場にあの二人がいなくて良かったと心の底から思う静雄。
そんな静雄を状況がつかめないといった顔でが見上げる。
『え・・・、っと?』
「か、傘ないんだろ?俺の傘でかいから入れてってやるよ。・・・その、嫌ならいいけど」
『!!い、いいいい嫌じゃない!!嫌なわけないじゃんか!!嬉しいです!ありがとうシズくん!!』
「ん・・・それじゃ帰るか」
『うん!!』
二人は肩を並べて昇降口から出て行く。
最初は普通に話していたのだが、いつもより近い距離にいることにだんだんお互い変に緊張し始め無言になるが、それはそれで悪い気はしなかった。
ザアザアという音も、まったく気にならない。
―――そして、はいつの間にか雨への憂鬱さが消えていることに気付くのは、自分の家の前で送ってくれた静雄が見えなくなるまで見送ったあとのことだった。
相合傘、ちょっと好きになれたある雨の日、そんな放課後の帰り道。
さんぽ。
>>>明日はちょっとした波乱が起こりそうな予感