連日、寒い日が続いていた。
だが今日はやっと春らしい春の暖かさになり・・・という訳ではなく暑いくらいの日であった。
日差しは燦々とし、風は生ぬるい。





『・・・あつい』

「カーディガン脱げばいいだろ」

『これ脱いだら半袖なの』

「?なんか問題でもあんのか?」

『腕の毛剃ってない』

「・・・」





放課後の図書室、生徒が多くいるかと思えば片手で数えられるくらいしか生徒はいない。
そんな中、向かい合わせに座ると京平。
京平はの言葉に眉を顰め複雑な表情を浮かべる。
しかし、あえて何も言わず視線をから読んでいた本に戻した。
それを邪魔するように口を開くのはである。





『ね、カドチン』

「・・・」

『シカト?シカトなのカドチン』

「・・・それ、俺に言ってんのか?」

『うん』

「カドチンって・・・なんだよ」

『いや、臨也がドタチンってあだ名つけて私がつけてないってなんか不満で・・・でも良くない?ドタチンよりカドチンのが良くない?』

「やめろ。これからノート貸さないぞ?」

『ごめんなさい。全力で謝る』





頭をごつんとテーブルにつけ謝るに、京平は内心で溜息をついた。


(今日はゆっくりと本を読もうと思っていたが・・・こりゃ無理だな)


パタンと本を閉じ、伏せたままのの頭をつつく。





「おい、顔上げろ」

『・・・許してくれる?』

「許す。・・・で?なんかあったのか?」





京平の言葉に顔を上げたはきょとんと目を丸くした。
それから困ったように眉を下げ、情けない声で『京平〜!』と唸る。





「なんだ、やっぱなんかあったんだな」

『うーなんでわかったのー・・・?』

「放課後、静雄んとこにいないで俺んとこにいるからだ。静雄となんかあったか?」





いつもなら放課後になった途端静雄のもとに飛んでいくが自分のもとにいるということで、静雄と何かあったのだと図書室にが来た瞬間から京平は推測していた。
なんだかんだ言ってのことを気にしてくれている京平。
まあ正直どうせ下らないことだろうとは思いながら、
「とりあえず話してみろ」と言い、の言葉を待つが・・・言い辛そうに口をもごもごさせるだけで話そうとしない。
ちょっとだけ、うわ面倒臭いことになりそうだ、と京平は心の中で盛大に溜息をついた。





「・・・まずいことでもしたか?」

『い、や・・・まあ・・・』

「いいから話してみろ。じゃねぇと、わかんねぇだろ」

『えっと、じゃあ・・・これを見てください』





そう言ってが鞄から取り出したものは、ラッピングされたカップケーキ。
透明の袋に軽くよれているが可愛らしくピンクのリボンがついている。
言われたとおりそれを見たあと、を見た。
で?、と言うような視線にがぽそぽそと話し出す。





『これ、一組の女子から渡されて・・・、その、シズくんにって』





気まずそうに目をそらすに静雄のもとへ行かず自分のもとへ来た理由が何なのかがわかった京平は、
あまりこういう話は得意じゃないんだけどな・・・と思いながらもどうするべきか悩む。
ちなみに、こういう話、というのは恋愛話である。
京平はが頼まれたものは静雄への好意のものだということがわかり、の気持ちを知ってる身としてはなんと答えるか悩むところだ。


(つーか、人伝いで物を渡すのはどうかと思うよな・・・まあ、相手が静雄となりゃ仕方ないことなのか?)


腕を組み、何とにかける言葉を頭の中で選ぶ。


(その、静雄のこと好きな女子には悪いが・・・ここは諦めてもらうしかない。
そうだな・・・には、直接渡さない女子が悪いんだから気にするな、とでも言うか。
それでそのプレゼントやら俺が預かって・・・つーか、俺がその女子に返した方がいいか?)


さてどっちがいいものか、首を傾げて迷っていると唐突にが一枚の紙をペラリと見せてきた。
その行動がどういう意味かわからず、京平はとりあえずが見せてきた紙を見つめる。
そこには女子特有の丸く可愛らしい字で『平和島静雄くん』と書かれていた。
ただ、それだけ書いてある紙だ。
京平は何故そんなものを自分に見せるのかがわからず、紙からへ視線を移すとが苦笑を顔いっぱいに浮かべた。





「?」

『み、見ての通り、これはシズくんへの贈り物です』

「そうだな」

『ですが、ここで質問です』

「は?」

『「これ・・・お願いしますッ!!」と女子に渡され、何か聞く前に走り去られてしまいました』

「・・・で?」

『・・・まあ、自分宛だと勘違いして食べちゃいますよね!』





てへ☆と最後に付け加えたに京平は激しい頭痛がした。
が静雄の元へ行き辛かったのは、静雄に好意を持つ女子からの贈り物を渡すのが気まずかった、
というわけでなく・・・静雄に好意を持つ女子からの贈り物を食べてしまったのが気まずくて行けなかった、
というなんとも言えない理由で、京平はただひたすらに対して「馬鹿だろ」の言葉しか浮かんでこない。
もちろんに渡すのを頼んできた女子にも同様に思うことであった。





「まー・・・あー・・・、確かにその女子も渡し方が悪い」

『だよね!!』

「でも紙入ってたんだろ?食う前にそれを先に見ろよ」

『あまりにもカップケーキが美味しそうだったんでつい・・・」

「馬鹿」





我慢できず「馬鹿」の単語言ってしまったあと、から紙を奪いすぐさま破り丸めた。
突然の京平の行動に今度はが何故そんなことをするのかわからないとでも言いたげにあわあわと慌てだす。





『きょ、京平なにしてんの!?』

「証拠隠滅だ。ほら、さっさとそのカップケーキも食っちまえ」

『え、え、ええ?』

「いっそのことなかったことにしとけばいいだろ。静雄のこと好きならお前と静雄がどんだけ仲いいかも知ってるはずだ」

『うん私とシズくんラブラブだよ!』

「調子乗んな。でだ、それを知っていてお前にわざわざこれを渡してくれって頼んでくるのはどうかと思う」

『う、うん』

「だから食っちまえ。ライバルに手を貸すことはねぇよ」

『う、うん!』





言われるがままに、混乱しながらもは食いかけのカップケーキを一口で食べた。
京平はそれにうわ・・・という表情をしながらも、さっきゴミにした紙をきちんとゴミ箱に捨てに行く。


(悪かったな・・・)


顔もわからぬ哀れな女子に、伝わるはずもないが謝罪をいい京平はのもとへ戻っていった。



そしてこれが後にとんでもないことになるとはこの時はまだ知らなかった・・・。










はっぽ。


>>>
「おい、俺のクラスの女子からカップケーキ預かってねぇか?」

『へ!?な、なんだって!?』

「いやだから、俺が調理実習ん時にカップケーキを何個か作ったうちのひとつを調理室に置いてきちまって、 それに気付いた女子がたまたま通りかかったに渡したって言ってたんだけどよ・・・」

『・・・・・・・・・・あの、うん』

「おいなんで目をそら・・・・・・お前、まさかとは思うが・・・」

『・・・』

「・・・」

『お、いしかったです!』

「!・・・てめ、ちゃんよぉ人のモンを許可なく食うなんて・・・覚悟はできてるよなぁ・・・?」

『っ・・・!ご、ごめんシズくん!!ホントごめん!!』

「あっコラ逃げんな!!」