私の幼馴染の総くんは意地悪だ。
朝起きるの苦手な私に毎日お弁当作れって言う。
学校はそこまで近くないからただでさえ早く起きなきゃいけないのに、お弁当作る時はもっと早く起きなくちゃいけない。
だから私は一度、「朝眠いからお弁当作りたくない」と抗議した。
しかし、何よりも怖い話が苦手な私に会うたび怖い話を「作る」というまで話してきた総くん。勝てるわけがない。
あの時は半泣きで私なんにも悪くないのに総くんにごめんなさいって言ったっけ。
それでそう言った時の総くんの満面の笑みは今でも忘れられないなぁ。嫌な意味で。
てか、総くんはミツバ姉ちゃんにお弁当作ってもらえばいいのに。
総くん大好きなお姉ちゃんのお弁当の方が嬉しいと思うんだけどなぁ・・・。
「おい、何余計なこと考えてんでィ」
「え、別に余計なことは考えてないよ・・・って、総くんいつも言ってるでしょ。勝手に部屋に入ってこないでよ」
「お邪魔しやす」
「あ、はいどうぞ・・・ってそれは入ってくる前に言う言葉だからね」
ボケーッとしてたら何時の間にか総くんが私の部屋にいた。
まぁ毎回毎回いきなり私の部屋に入って来たりするからそれ程驚きはしなくなったけど・・・
一応女の子の部屋だから勝手に入るのだけは止めて欲しい。
もうお互い思春期真っ盛りだし、少しは遠慮してほしいんだけどな。
「そういや飯はねーのか?」
「なんで?」
「腹減ったんでィ」
「じゃあ自分の家でなんか食べなよ」
「姉上は今日友達と出掛けてんだよ、だから早くなんか作れ」
「えー」
「俺の言うこと聞けないんですかィ?」
「はぁー・・・じゃ、オムライスね」
本当に総くんはおっきな子供だ。わがままガキ大将、そんな名称がぴったりだ。
ニヤニヤ笑う総くんが台所へ向かおうとする私の背中に圧し掛かってきた。
小さな頃は私のがおっきかった身長も今は抜かされて、見上げるほどになった。
細身だけど私にとったらおっきな総くんに圧し掛かられたら当然潰れそうになる。
なんとか踏ん張って潰れないようにするけど、これじゃ動けないよ。
総くんはホント意地悪で不思議。
お腹減ってるなら邪魔しないでよね。
「総くん、このままじゃ動けないよ」
「へェそりゃ大変だ」
「そう思うならどいてよ。オムライスも作れないよ」
「んー」
「・・・まったく・・・」
いつまでも離れそうにない総くんに溜息が出てしまう。
後ろから私の肩に顔を埋め、ピクリとも動かなくなった。
もー重いし身動きできないしで最悪だよ・・・。
甘えたいにしても私たちはもう高校生なわけで、こういうことは止めた方がいいと思うんだよね。
私としては総くんは今でも大事な幼馴染だからこうして甘えてくれることは確かに嬉しいんだけど、
やっぱり世間一般論からしていくら幼馴染だからといってあまりよろしくないんじゃないかな?
それに総くんすごくモテるんだから彼女とか作って、その彼女さんに甘えたらいいのに。
「なァ」
「ん?」
「昨日一緒に帰ってた奴って・・・誰なんですかィ?」
「昨日?」
「そうでィ、忘れたとは言わせやせんで」
「昨日・・・昨日昨日きの、あ!あーあれね!あの人知らない人だよ」
「は、ァ!?お前知らない人と帰ってたのか!?」
「え、違うよ。駅までの道がわかんないって言うから案内してただけ」
「な・・・チッ、ホントありえねェ・・・」
「総くん?」
少しだけ元気のない声で話してた総くんに答えてあげると、総くんは途端に舌打ちしてきた。
ホント総くんわけわかんない。
圧し掛かってた重みがなくなり首だけ後ろを向くと、不機嫌そうな顔で私を睨んでる。
もう、なんだっていうのさ。
私は総くんのわけのわからなさすぎる行動の数々に首を傾げながら台所に入っていった。
「鈍感」
「んー?総くんなんか言ったー?」
「・・・何も言ってやせんぜ。ただが包丁で指切っちまえばいいのにって思ってただけでさァ!」
「ちょ、そんな怖いこと言うのやめてよね総くん!!」
不機嫌顔から楽しそうに顔を歪ませ「指切っちまえ」コールする総くんに口元を引きつらせながら、
私は包丁を握った。・・・このまま総くんのこと刺してやろうか。・・・はぁ。
またひとつ、幸せが逃げた気がします。
「ったく、長期戦なんてガラじゃねぇんですけどねィ・・・いつになったら、」
幼馴染を抜けられるんだか。
(いい加減、俺の気持ちに気付いてほしいもんでさァ)