今でも、好きな人がいる。
ずっと、ずっと、これから先も好きであろう人。
そんなあの人は今どこで何をしているのだろう。
戦争という悲しい場所に身を置いていたあの人。
戦争が終わってもう何年経ったのか・・・彼の中では戦争はきちんと終わっているのか、それさえもわからない。
けど、そんなあの人が今、幸せでいればいいと心の底から思う。―――――――――――――































「え・・・?」

「・・・あれ?」









江戸のかぶき町に越してから早一ヶ月。
かぶき町での生活も仕事も慣れてきた頃、今日は仕事が休みだった。 久しぶりにゆっくり買い物をしようと散歩をしていたところ・・・美味しそうな甘味処を見つけ立ち寄ろうとした。 立ち寄ろうとした、が、・・・ばったり、私が入ろうとした時に身長の高い男の人がタイミングよく出てきた。 ぱちくり、瞬きして私の記憶がぶわっ蘇ってくる。あ、あれ??なんでだろうなぁ。 男の人も私を見て固まった。驚いたように目を見開いていた。あ、あれ?なんでだろうなぁ、 お、おさらいをしよう! わ、私の好きな人は、宝石のような紅い目はいつも眠そうにしているけどしっかりと前を見据えていた。 あ、あれ?けど、あれ?この人は・・・あ、あれ?









「お前・・・もしかして?え、うわそうだよな!?久しぶりだなー!つぅかお前こんなとこで何してんだ?」

「・・・え、えっとぉ・・・どなたですか?」

「ちょっとちょっとーそれはないんじゃないの?銀さんマジで傷ついたんですけど」

「・・・いやいやいや」

「いや、なんで後ずさってくの?え?ちょマジで俺のこと忘れてる?え、マジ?」









う、嘘だこんなのう、嘘だ・・・! だ、だって私の好きな人は、宝石のような紅い目はいつも眠そうに(以下略)な人なんだ! 今私の目の前にいるこの人は・・・確かに紅くて綺麗な色の目をしているけど・・・眠そうというより死んだ目してるよ!? 前を見据えてるっていうか浮遊しちゃってる感じだよ!? しかもおっさん全開じゃん!! 相変わらず漫画みたいな頭しっちゃってるけどさ・・・って相変わらずって何!? し、知らないから!こんな人私知らないよ!! そう!赤の他人の空似に決まっ









「俺、ほら、坂田銀時だって!お前だろ?随分でかくなって・・・銀さん一瞬誰だかわかんなかったよー」

「っ言わないでよバカー!!」

「えぇ!?」









知りたくないわかりたくない事実を見事暴露してくれた私の好きな人。・・・むしろ元好きな人。 自分のこと銀さんとか・・・髪型みたいに頭の中もパァーしちゃったんだこの人・・・! い、いやけど、名前が一緒とか・・・ほら、同姓同名だよ!う、うん! なんだか自分で言ってて虚しくなってきた・・・目の端から透明な液体出てくるよ! あまりの色んなショックに顔を両手で覆って私はひたすら呪文のように言葉を無意識に・・・ホント無意識に繰り返す。

「貴方みたいな残念な天パの甘いもの好きで目が死んだ魚で残念な頭で髪型してる銀ちゃんなんて知りません貴方みたいな残念な天パの甘いもの好きで目が死んだ魚で残念な頭で髪型してる銀ちゃんなんて知りません貴方みたいな残念な天パの甘いもの好きで目が死んだ魚で残念な頭で髪型してる銀ちゃんなんて知りません・・・!」

「いやお前明らか・・・ちょ、今俺の髪型6回けなしたろ!なにそんな俺の髪イヤ!?そんな6回も言うほどイヤ!?奇遇だな、俺もイヤ。」

ほんとにほんとに髪型まで似やがってコノヤロー! そんな残念な部分は捨てて来いコノヤロー! ひたすら暴言というなの暴言を浴びせ続ければ、黙りこくる・・・目の前の人。 ちょっと言い過ぎたかなぁなんて思って両手の隙間から 銀ちゃ・・・銀ちゃんに似てる人(私はまだ認めません)を見れば、自分の髪の毛を指で摘みながら「俺もストレートとかだったらなぁめちゃくちゃモテてたのになぁー」 なんて言ってる。 凹んでるどころかどこまでポジティブなこと言ってんだよ。 言っとくけど、銀ちゃんは天パだったからモテなかったわけではない。 銀ちゃんはなんだかんだ言って顔は良い。だけど、中身が正直言って駄目だった。 お馬鹿さんで下品だったし、周りにいる奴らも顔は良いけど揃いも揃って馬鹿だったから女子に引かれてたんだよ。 まぁ、でもそんなとこも魅力だよねとか思って銀ちゃんのこと好きだったんだよなーあの頃は若かったなぁほんと。 ・・・・・・べ、別に、今の目の前の人について言ったことじゃないからね! 私の過去について言ったんだからね!!









「あ。そういやヅラ覚えってっか?」

「え?ヅラ・・・って小太郎のこと?もちろん覚えてるけど・・・もしかしてかぶき町に住んでるの?えっ元気にしてる?」

「あぁうざいくらいに元気だよ。なんか知らねェうちにあいつもこっちに来たっけなー・・・まぁたまにこの辺歩いてるから会えばわかる。本気でうぜェから。白い化け物連れてっからすぐわかると思うぜ」

「そっかー・・・小太郎も元気でやってるんだねー会いたいな・・・、って私なに知らない人と過去の人間について話してんの!?駄目じゃない!!」

「ちょ、知らない人ってなに!?俺まだ坂田銀時だって認められてねェの!?しかもヅラ過去の人間とか一応死んでないからねあいつ!」









駄目駄目駄目!!なに流されちゃってるのよ私!! この人は坂田銀時に似てる人よ!そう!ただの残念な天パの人!! こんな・・・こんなだらしなく成長してる人なんて私知らないわよ!! って鼻クソほじくってんじゃねェェェェ!! 私は全ての力を指先に込め、銀ちゃんの・・・鼻をめがけ渾身の一撃を放った。









「ふぐぉっ!!いっっったァァァァ!!?」

「っ何回言ったらわかるの!?外で鼻ほじるの止めてって言ってるでしょ!?今度やったらティッシュを鼻の穴広がるまで詰めるって言ったよね!!忘れたわけ!?ガチで私やるよ!?やっちゃうよ!?それでもいいわけ!?マジぶっ殺すぞテメェ!!」

「す、すいませんっしたァァァ!!」

「次やったらマジで詰めるから。なんならケツにも詰めてあげようか?」

「いやいやいや、それは女の子としてどうかと思うからやめなさいね。そして銀さんは詰められるより詰めたい、ブチ込まれるよりブチ込みたい派だからほんと勘弁してね」

「なにどさくさに紛れて下ネタ言ってんだ!!あんたのそんな事情知らないから!知りたくもないから!もうやだこの人マジで銀ちゃんだ!!」









私が頭を抱えてしゃがみ込めば、頭の上からやる気のない脱力する声で「やっと銀さんだって認めたかー」 なんてのん気に呟いていた。 懐かしすぎるこのやり取り。 せっかくかっこいいのに鼻をほじる銀ちゃんがすごく嫌で嫌で仕方なかった時、私はよく銀ちゃんに鼻フックをしていた。 やめての意味ともうやないでの意味を込めて、銀ちゃんを転ばせるくらい鼻血を出させるくらい強い力でやってたっけ。 ・・・あぁ、ホントにこの人は銀ちゃんなんだ・・・。 懐かしいやり取りに私はじわじわとこの現実を味わう。 うん・・・ホントにホントに、私こんな奴のどこが良かったんだろう・・・!! はぁーと盛大に、そりゃもう大きく銀ちゃんに聞こえるように溜息をつけば「幸せ逃げるぞー」 とかさっきと同じようにのん気に言ってきた。 この声も、確かに銀ちゃんだ。のん気だけども、間延びしてだらしないけど、何よりも落ち着く声だ。 チラリと目線を上に向けた。

ホントに、こんな奴のどこが・・・・・・あーうん、散々あれやこれやと言ったけど、結局さ、うん。









「・・・・・・、久しぶり、銀ちゃん。」

「おう・・・久しぶりだな、。」



























ただ、胸が高鳴る。

(それが彼を好きな理由。ずっとずっと、この胸は彼以外には高鳴りはしないのだ)

























「ちょっとォォォォ!!なにこれェェェェ!?」

「え?俺のマイホーム」

「きったないんだけどきったないんだけどうわっくさっ!!」

「ちょ、くさくないしフローラルな香りしかしねェし」

「なにここゴキブリの家?」

「いや銀さんの家。」









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新八に出会うちょい前。