彼女はかわいい。
「あー!典明くん!見て見て!!これ!すっごく可愛い!」
学校の休みに出かける約束をして、女の子が好きそうな雑貨屋さんにやってきた。
彼女はわけのわからない変なクマのキーホルダーをズァっと僕に見せ付ける。
全くもってそのクマは可愛くないけど君は可愛いよ。
「あーこれ可愛いなぁ・・・ねぇ典明くん、お揃いでこれつけない・・・?」
可愛くて好きでしょうがない女の子に上目遣いで聞かれて頷かない男はいるだろうか、いやいない!!!
君が言うなら僕はそのブッサイクなキーホルダーだって身につけるさ!
僕は彼女の持っていたキーホルダーを3つ持ってレジに行く。
こういう時は男が買うべきだとギャルゲーで言っ、待て、え、3つ・・・?
彼女の手から取ったのは・・・え、3つのキーホルダー?
「え、3つ?」
「え?うん、承太郎くんも一緒にお揃いってしようと思って・・・あ、私が欲しいって言ったらから私が買うよ!」
いや、僕は友達思いな彼女も好きだ。
でも違うだろう、そうじゃない、そういう展開じゃなかったァ!
とは言え僕達は付き合っている恋人同士ではなく友達同士・・・そうだ、まだ友達同士なんだ・・・仕方ないと言えば仕方ない・・・。
思わず肩が震えたのもしょうがないだろう・・・。
この場にいなくてもいつも思われている承太郎、君が羨ましいよ・・・。
悶々と考え込んでいると突っ立っていた僕の腕が引かれた。
「はい、典明くんの分だよ!」
「え・・・あ、ありがとう・・・そうだ、お金・・・っ」
「いらないよ?だって私が典明くんとお揃いにしたいって言ったんだもん!」
いつの間にか会計を終えた彼女が、にっこり、満面の笑みで僕の掌に先ほどのブッサイクなキーホルダーを乗せる。
ブタなのかクマなのかよくわからない顔だ・・・。
だけどこれが彼女からの贈り物だと思うと愛しく思える。
承太郎ともお揃いだけど、この際それはもうどうでもくなってきた。
彼女が僕のためにくれたって思うと、感動でちょっと痙攣でもしそうだよ。
しかしだ、彼女にお金を払わないのはやっぱりよくないと思うんだ。
男としてよくないとギャルゲーの女の子に言われた。
ポケットから財布を取り出そうとすると、彼女が「典明くん!」と少し大きめな声で僕の名前を呼ぶ。
「な、なんだい?」
「それプレゼント!だからお金のことはもう気にしちゃダメ!」
頬を膨らませて財布を取り出そうとしていた腕を掴まれた。
もうこの子はどこまで天使なんだろう・・・可愛い可愛い可愛い!
デレっとしそうになる顔を引き締めて、「わかった・・・このお礼は今度するよ」「えーそんなのいいのにー」
「僕がしたいんだ」「じゃあお言葉に甘えて、今度遊びに行くとき楽しみにしてるね!」ッワァー!次の遊びの予定決定じゃあないかー!
思いも寄らぬとこでまた出かける約束を取り付けられるとは・・・!
嬉しすぎて頬が緩む!引き締める!引きつる!!
今の僕の顔は相当面白いことになっているだろうが、彼女はそんなこと全く気にした様子はなく(それはそれで悲しい)お店の出口へ向かっていく。
これからどうするとかは全く決めていない。
どうするのだろうか・・・彼女に聞いてみて何も決めていないなら、僕が何か提案して少しでも一緒にいられるようにしよう・・・。
前を歩く彼女は早速キーホルダーをバッグにつけつつ上機嫌に鼻歌を歌っている、可愛い。
「このあとの予定なんだけど、」
「このあとはねー承太郎くんの家行こうかなーって思ってるよー」
「へー、・・・はい?承太郎の家?」
「そうだよ!ピンポーンって鳴らして、承太郎くーんあっそびましょっ!ってやろうと思ってるの。そこでキーホルダーも渡す予定〜」
えーそれ確実に承太郎が家から出てきた瞬間殴られるのは僕じゃあないか・・・。
そう思いつつ彼女の楽しそうな顔見ていると何も言えなくなるから困る。
ポンポンと話題を出す彼女とそれに応える僕、キーホルダーは掌のなか。
どこにつけようかな・・・学校のカバンにでもつけて全員に見せびらかしたい。
そうして談笑しつつも彼女の足も僕の足も、確実に一歩一歩承太郎の家へと向かっていた。
僕の定位置は君の一歩後ろです。
(まだ隣は歩けない)