「わぉ・・・・・・すごい量だね」

「おう!いやーまさかこんなにもらえるとはなー!」










左之とか土方さんにゃ敵わねぇけど大量だろ!と、 とてもだらしなく緩んだ笑顔で同僚の永倉新八はチョコの山を見せびらかしてきた。 どうせ全部義理だろ、と思いつつ口には出さない。 わかりきっていることを改めて言われるほど辛いことはないからだ。 まあね、義理でもこんだけもらえりゃすごいと思うし。 予想外のチョコ山に私は溜息をついて、自分が持ってきたチョコをそっと後ろに隠した。 こんだけあれば、今年は私からいらないよね。 毎年チョコをもらえる数が少ないと喚く新八のために作ってきたけど・・・今年は特別みたいだし。 嬉しそうにチョコを鞄に詰めている新八を見てなんだか悲しくなってくる。 ・・・今年のこのチョコは自分行きだな。 チョコに意識がいっている新八に気付かれないように自分の机に行こうとする。 さっさと仕舞って左之に愚痴ろう。 そう思ったのだが、いきなり新八が振り向いてきたことに驚いて思わずビクついてしまった。 なんかあったのかと思って黙っていると、新八はじっと私を見てくるだけで何も言わない。 ・・・気味悪いんだけど・・・。 新八の視線に耐え切れなくて少し後退ると、今度は手を差し出された。 え、ますますわけわかんないんだけど。










「で?」

「・・・で?ってなに」










喋ったと思ったら主語がない言葉。 その言葉に呆れ気味に、主語を言いなさい主語を、と言うと新八はきょとんとした。 差し出した手を下ろしかけたが、再度その手を上げ私に向ける。 いや、だから、なに?










「あの、新八くん?さっきからなに?」

「俺、まだお前からのチョコもらってねぇぜ?」

「・・・・・・は?」

「毎年くれるから今年もあんだろ?」










ほら早く寄越せと言うように手を上下に揺らされ、私は反応に困った。 後ろに隠したままのチョコをぎゅっと握り、渡すか渡さないかで気持ちが揺れる。 だってさ、あんたすっごいチョコもらってんじゃん。 それなのにまだもらおうとするわけ?どんだけ食い意地はってんの? 別に私より可愛くて若い子たちからもらったのだけで充分じゃないの? そう思ったら渡さない方がいいかも、という考えに行き着く。 でも、新八が欲しがるんならあげればいいじゃん、とも思う。 ああ、もう矛盾だ矛盾すぎる。 こんな自分ホントに嫌だ。可愛くない。 私が黙りこくっていつまでもチョコを渡せないでいると、新八が「あー」痺れを切らしたように声を出し頭を掻いた。 それからむすっとした表情で私の目を覗き込む。 まるで、私の心を見透かすように。










「俺に渡すチョコ、今年はねぇのか?」

「・・・・・・」

「ったく、なんか言えよな・・・じゃあ、あれか?他に渡す奴でもいんのか?」

「・・・いない。ていうか、今年は私のいらないでしょ」

「は?なんでだよ」

「だって・・・・・・そんないっぱいもらってるじゃん」










そう言ってから後悔した。 こんなの、嫉妬みたいだ。・・・いや、嫉妬、なんだ。 でも私は新八の彼女でもなんでもないし、ただの仲のいい腐れ縁的な存在なのに何を言ってるんだろう。 すごく恥ずかしいのと悲しいのでまともに新八の目が見れない。 けど、新八は私の顔を掴むと無理矢理目線を合わせてくる。 なにすんの、って怒りたかったけど、新八の表情がそう言わせてくれなかった。 なんで、なんでさ、新八。 どうしてあんた・・・・・・顔が、赤いの?










「そりゃいっぱいもらえんのは嬉しかったけどよ、やっぱどんなにもらったってお前からのチョコがないといっぱいあったって駄目なんだよ」










新八の言葉をゆっくり自分の中で繰り返す。 ゆっくり、ゆっくりと理解しようとするけど、うまく頭が働かない。 少し震える唇で、それどういう意味?と聞く寸前、私の口は少しかさついたものに塞がれその言葉が紡がれることはなかった。





















何十個よりも、たった一人のたった一個を希望します
(その意味、わかるよな?)














Happy Valentine!