昼休憩になり、周りがざわざわしだす。
友達もさっさとどこかへ行ってしまった。
まあ、どこかへ、ってどこに行ったか知ってるけどね。
なんたって今日はバレンタインなのだ。
乙女達が頑張る日だ。
そんなわけで乙女な友達は乙女な行動をしに行った、というわけ。
うーん、いいね。青春だわ。
自分も一乙女なはずなのだけど・・・渡す相手もいないので全くもって関係のないイベントだ。
と、思っていたのだが・・・








「はい、これ」

「・・・・・・なんですか、これ」

「なにって・・・チョコやけど」

「それをどうして私に?」

「今流行の逆チョコ」

「はあ」

「好きな女の子に渡すチョコや」

「・・・すいません、三時間目あたりからトイレ我慢してたんで行きます」

「ついてったろか?」

「なぜ。白石先輩とりあえず気持ち悪いから半径3000mくらい離れてください」

「ははっは本間に照れ屋さんやな!」








まさか、渡すのでなく渡される側になるとは・・・予想外だった。 そして、このとんでもない勘違い野郎を誰か外に追いやってくれないだろうか。
自分の表情がどんどん冷めていくのを感じながら目の前にいる勘違い野郎、もとい白石先輩を睨みつけた。
そしたら「えっそんな見つめられたら・・・俺本間に我慢できひんよ?」とか言ってきた。もうマジで帰れよ。
とりあえず、今は昼休憩なので私は目の前の白石先輩を視界にいれない方向でご飯を食べることにする。









「お、の弁当うまそうやなぁ・・・え、これもしかして俺にくれるん?」

「あげません。今から私が食べるんです。本間に用がないんやったら帰ってくれません?」

「何言うてん。用ならあるで?に会うのと、これ渡すためや」

「・・・女子からの視線が痛いです」

は女子にもモテるんやな」

「いえ、これは白石先輩のせいです」

「??」








不思議そうに白石先輩が首をかしげる姿に周りの女子が黄色い声を発した。
それにびっくりした表情で周りを見渡す先輩。
そんな先輩に私は溜息をついた。この人変に鈍いから嫌だ。
私に先ほどからちょっかいをかけてくる白石先輩は頭おかしいが顔はいいのでものすごくモテる。
きっと私から離れたらすぐ色んな女の子からチョコをもらうだろう。
下駄箱とかそういうところにもたんまりチョコを入れられているだろうな人。
正直言って、私みたいな平凡をどうして構うのかまったくもって理解できない。
私はこの学園生活を普通に過ごしたいのだけどね。まぁ、白石先輩がこうして関わってきてる時点でアウトですが。








「なんや周りがやかましいな・・・俺との仲を邪魔する気か!?」

「邪魔されるほどの仲を築いた覚えはありませんね。ほら、先輩も早よ教室戻らんと昼ごはん食べれないとちゃうんですか?というわけで帰って下さい」

「これをが受け取ってくれたら帰るで!そんで放課後また来る」

「受け取るんで一生来なくていいです」








奪い取るように白石先輩の手からチョコを受け取る。
別に欲しくはないが受け取らない限り帰らないと言われれば受け取るしか選択肢がない。卑怯だ。
というか白石先輩の思い通りに動いてるように感じる自分に溜息しか出ない。はあ。








「溜息ばっかついとったらあかんでー?」

「誰のせいですか、誰の」

「え、俺やろ?俺のこと思いすぎて出る溜息やろ?あ、せやったら溜息もええもんよな」

「・・・」








もうなにも言うまい。
この人といると本当に頭が痛くなる。
会話ができない、とはこういうことを言うのだろう。
うん、ためになったわ。 これで少しは耐性ついた。
勘違いで嬉しそうにニコニコしてる白石先輩に周りがまたもやキャーキャーしているが・・・もうお前らまとめて馬鹿だよ。
とりあえずチョコをしまおうと、鞄を手にする。
と、そこで思い出した。そういえば・・・この前駄菓子屋で買ったものがまだ鞄に入れっぱなしだった気がする。
・・・強制的だったとしても物をもらったのでお返しをしなくては、という自分的一般常識が働きだし鞄からそのお菓子を取り出す。
白石先輩からもらったものに比べたらそりゃあ価値はだだ下がりだけど・・・これ、チョコはチョコだから許されるよね?








「・・・白石先輩、これあげます」

「えっ・・・・・・えっ!ええのか!?」

「はい、一応お返しみたい、な・・・まあこんなんでいいなら、ですけど」

「っ・・・!!」

「あの、白石先輩・・・?」

「ま、まさか・・・、」

「まさか?」

「っまさかからチョコがもらえるなんて・・・!うわっどないしたらええ!?めっちゃ嬉しいわ・・・!」

「は、はあ、そうですか」








渡したのは五円チョコなんだけど・・・。
白石先輩のあまりの喜びように私は思わず苦笑いを浮かべた。
そこまで喜ばれると・・・まあ五円チョコだけどもあげて良かったかな、なんてちょっとだけ思う。






















たった五円の代物だけど
(彼にとっては幸せのかたまり)
















「これ、お守りにするな!」

「お願いですから食べてください」




Happy Valentine!