困った。
おれは今、どうしたらいいかわからない。
目の前にはキラキラとしたお店。
そこは女の子達がたくさん溢れかえっている。
足が竦んだように動かない。
どうしたら、いいんだろうか・・・。
女の子が好きなお店、つまりはアクセサリーショップの目の前で立ち尽くす男、のおれこと立向居勇気。
先月、バレンタインの日に憧れのさんからチョコを貰った。
そのお返しを、今月のホワイトデーに渡そうと思っている。
でも女の子ばっかでどうしたらいいかわからず、この今の状況だ。
いつまでもお店の前でうろちょろするのはよくないってわかっているんだけど・・・。
すごく、入り辛い・・・!!
見れば見るほど女の子ばかりで・・・おれの存在場違いすぎる。
だけど・・・ここでおれは逃げるわけにはいかない・・・さんのために!!
そう、さんのために!
なんてことを思っている、なんだかやれる気がしてきた。
なにが?って聞かれたら困るけど。
と、とりあえず、まずはお店に入らないと!!
それで、それで・・・それで、何を買ったらいいんだろう?
さんが喜ぶものって・・・あ、どうしよう。
***
悩みに悩んだ時間、約4時間。
4時間も店内を険しい表情でうろちょろしてたおれはすごく不気味だったと思う。
でも、目的の物はちゃんと買えたから良かった。
あとはどうやってこれをさんに渡すかで・・・って、あれは・・・!!!
おれはとっさに近くにあった電信柱に隠れる。
アクセサリーショップを出てすぐのところのコンビニで、今まさに頭に思い浮かべていたさんが雑誌を立ち読みしていた。
まさかのさんだ。
そう、まさかのさんでおれの頭は大混乱している。
ど、どうしようか・・・!こ、声をかけるべき、かな?
い、いや今さんは雑誌を立ち読みしてるから邪魔はよくない!!
で、でもせっかくさんと会えたから話したい・・・!
う、うあああおれはどうしたら・・・!
悶々と考えて考えて・・・うう、どうしよう!
頭を抱えてしゃがみこもうと俯いたおれの視界に見慣れた靴が飛び込んできた。
バクバクとうるさい心臓を押さえながら、そーっと顔をあげると・・・さっきまでコンビニで立ち読みしていたさんが不思議なものを見るような瞳でおれを見ている(!?)
一瞬、息が止まった。
っ・・・、
「ゲホッ!」
「!うわっ大丈夫!?」
「ゴホッコホッ!(や、やばいむせた・・・!)っだ、だい、大丈夫です・・・!」
「え、そう?ホントに大丈夫?」
「っ、こふっ・・・ん、は、はい・・・!」
「ならよかった・・・コンビニで立ち読みしてたら立向居くんが電信柱にひっついてるからどうしたのかと思ってさー」
「!!(バレてた!)」
「かくれんぼでもしてたの?」
少しいたずらっぽい笑みを浮かべてさんはおれの顔を覗き込んだ。
あ、ち、近い・・・!
どんどん顔が熱くなってくるのを感じる。というか全身熱い気が・・・!
さんの問いに曖昧に笑って答え、おれはさきほど買ったものを渡すか渡すまいかで悩んでいた。
14日は明日だ。けど明日は練習はないのでさんに会えない。
さんの家は知ってるけど・・・そ、そんな押しかえるみたいな真似は絶対にできない!
だったら渡すのは今日か明後日と言うことになる。
迷う、なぁ・・・。
だけど、せっかくのチャンスをおれは逃してもいいのだろうか・・・?
こんな偶然めったにないと思う。この場所はおれの家からかなり遠いし・・・。
だったら、男・立向居勇気!ここは覚悟を決めるべきなんじゃないだろうか!!
お返しの袋を持っていない手をぐっと握り締めて、きちんとさんの目を見つめる。
いつもは恥ずかしくてそんなことできないけど・・・今日のおれは違う。
ちゃんと逃げずに、男らしく渡す!
さんはおれの変化に気付いたのか、首を傾げておれを見ていた。
・・・可愛いです。
「あのっ、さん!」
「う、うん、なに?」
渡すだけなのに、すごく緊張して・・・握った手のひらが汗をかいていた。
さんがおれの次の言葉を待っている。
い、言わなきゃ・・・!
そう思えば思うほど、緊張してきちゃって・・・顔も熱くなる一方だ。
これじゃいけないと思い、勢いよく頭を下げて、さんへお返しを突き出す。
が、頑張るんだおれ!!
・・・あ、でもこれじゃあさんから目をそらさないで男らしく渡すのができなっああっ仕方ない!おれもたない!
そう自己解決をし、おれは情けない声が出そうなのを堪えて、さんに聞こえるようにしっかりと声を出した。
ちゃんと伝わりますように、と。
「これっバレンタインのお返しです!!」
「へ・・・バレンタインの?私に・・・?」
「はい!!」
「っあ、ありがとう!!」
「え、っと、気に入ってもらえるかわからないんですけど・・・」
「なに言ってるの!立向居くんが選んでくれたんだから気にいらないわけがないでしょ!」
その言葉にバッと顔をあげれば、満面の笑みでおれからのお返しを抱き締めるさんがいて、
・・・最後まで情けないおれはつい泣きそうになってしまった。
ああ、おれは、
その笑顔が見たくて、
4時間もあの場所であんなに悩んだんだなと思いました。
結論、あの時勇気を出して渡して良かった。男・立向居勇気やりました!
・・・けど、電信柱に終始体をくっつけてたのはよくなかったなと後で反省した、13日の夕暮れ。
White day!