「これバレンタインのお返しです!受け取ってください!」
「私はあなたにバレンタインをあげてません。受け取れません」
獄寺が突き出してきたお返しと言われるものを突き返すと、何言ってんですか!と言われた。 いや、お前こそ何言ってんだよ。 私の弟はなんでこんな奴と友達なのかわけわからんわ。 私がバレンタインでチョコをあげたのは家族である。 大量にトリュフを作ってセルフサービスみたいな感じでリビングに置いといた。 家族だからいっか、みたいな。まあ正直個別にするなんてめんどくさかったんだよね。 と、いうわけで私は獄寺にバレンタインにチョコをあげた記憶はないわけだ。 なのにお返しって・・・ねえ? こいつ記憶力ねえの?みたいな。 お返しを突き出したままの獄寺の前を通り過ぎようとしたが、獄寺は回り込んでまた私の前にお返しを突き出す。 それを何回か繰り返す。 ・・・あー、うざい。
「さっどうぞ!」
「いやだから受け取る義理ないし」
「いえ!チョコを頂いたお返しをしなければ10代目に合わす顔がありません」
「じゃあ一生合わせなくていいよ」
私がそう吐き捨てるように言えば、今にも泣き出しそうな顔で見られた。 知らんわ。 さっきから言ってるとおり、私は獄寺にチョコをあげた覚えない。 だからもらう義理はないと言っているんだ。 それなのに・・・ああっもうイライラする。 苛立ちを隠しもせず、舌打ちをした。 すると、獄寺が目に見えるくらいにしゅんと沈む。
「で、でも、俺・・・さんにお礼したいんスよ・・・」
「・・・なんで?私は獄寺に何もしてないよ?」
「バレンタインの日、さんのチョコを頂いたんですよ」
「・・・は?」
おかしい。私はマジで獄寺にあげた覚えはないぞ? かと言って獄寺が嘘を言ってるようにも思えない。 というか、こいつは嘘つくのが(私や弟には特に)下手だ。 ・・・うーん、けどなぁ・・・。 バレンタイン当日、私は高校の友達と遊びに出かけていて、獄寺と一度も会っていないはずだ。 その疑問が顔に出ていたのか、おずおずという感じに獄寺が話し出す。
「その、いつものように10代目と今後のことを話すため沢田家にお邪魔したんスけど、リビングに大量のチョコが置いてあって・・・」
・・・ああ、読めた。読めたぞ・・・。 ぺらぺらと喋る獄寺の言葉を聴かなくてもわかった。 つまりはこうだろう。 リビングに置いてあった大量のトリュフを、家族だけじゃ処分できないと思った弟が獄寺に勧めたんだ。 それで、今のこの状況か。 ・・・弟はあとでシメルしかないな。
「なので、ちゃんとお返しを・・・」
「あー・・・そんなん別にいいのに・・・」
「そんなんダメです!!俺が気が治まらないっス!」
いいっつってんのになー。 獄寺を見れば、受け取るまで帰りません!とでも言うような顔をしてる。 あー理由がないから受け取らないでいいと思っていたが・・・ 私があげてないと思っていても獄寺が私のチョコを食べたことには変わりないので、ここは素直に受け取っておいた方がいいのだろうか。 数秒悩んだ結果、私は獄寺の手からお返しを受け取った。
「ありがと。受け取る」
「さん・・・!!!」
しゅんとしていた姿はどこへやら、獄寺は周りに花が咲きそうなくらいパッと明るくなった。 受け取っただけでこんなに喜ぶとは・・・逆にすごいよ、獄寺。 今なら獄寺からピコピコと動く犬の耳とブンブンと振り回してる犬の尻尾が見える。 まあ、弟に対してはいつもそんな感じか。 受け取ったからこれでもう獄寺の用事は終わったから帰るだろう。 そう思っていたが、一向に帰る素振りを見せない。 まだなにか用があるのか? 不思議に思い、獄寺を観察すると、照れたように獄寺が頬をかいた。
「えっと、」
「なに?」
「本当は、チョコをもらった時に言うべきだったんスけど・・・」
そこまで言うと、獄寺は私から少しずれていた目線を私に合わせてきた。 ちょっとだけ、びっくりする。 めったに私と目を合わすことのない獄寺。なんでも恐れ多いらしい(アホか) そんな獄寺が私と目を合わせてきているから、そりゃ私だって驚く。 思わず黙り込み、数秒、沈黙が降りる。 ・・・ふいに獄寺の表情が緩んだ。
「さんのチョコ美味しかったです!!本当にありがとうございました!」
獄寺は、普段では想像できないような無邪気で何の害もなさそうに笑ってそう言った。 全く予想していなかった言葉で、唖然としてしまう。 そして、私はその笑顔を見ながら、私のチョコを食べたときの弟の言葉を思い出した。
『姉ちゃん・・・まずい・・・。なに作ったの・・・?』
本当に美味しくなかったのだろう、その時の弟は半泣きだった気がする。 (・・・そんな弟に『トリュフだ』と自信満々で言ったっけな。) 実際に弟を半泣きにさせるぐらい、私のトリュフはおいしくなかった。 それなのに、獄寺は「美味しい」と言うのか。 絶対獄寺だってまずかったと思ったはずだ。 自分でも料理は下手だと自覚してる。自分で食べてもまずいと思った。 それなのに、獄寺はそんなこと言うのか。 あんなのを、さ。 しかもあんなものに対してお返しまで用意して。 私はあげたつもりなんてない、ただ置いていただけのものを、弟が勧めて、悪く言えば食わされたようなものなのに。 つくづく馬鹿な奴だなぁと思いつつ、一方では可愛い奴めという感情が芽生え始め、とりあえず髪の毛が乱れるようにぐしゃぐしゃと撫でてやった。
White day!