彼女が言った、「街を探索してきます!」その一言で僕達は今街を歩いている。
一人で探索する気満々だったらしい彼女は僕の「一緒に行くよ」の言葉には相当驚いていた。
何気なしに承太郎を見れば、彼はもう扉の前にいた・・・なるほどね、僕が申し出しなくてもついていく気だったわけか。
僕の余計なお世話でなんだか少しお邪魔した気分だが、たまにはいいだろう。
僕も息抜きと言う名の、友達と出掛けるをしてみたい。
何の宛もなく他愛無い話をしながら本当にブラブラという感じに街を歩いていると、彼女が小走りである店の前で立ち止まる。
どうやら喫茶店のようだ。





「そろそろ休憩しませんか?こことかどうです?」





彼女の提案を承諾し、彼女を先頭に喫茶店へと入る。
案内された席に座ってメニューを見て特に悩むわけでもなく僕と承太郎は店員に注文を告げた。
しかし彼女は何かに悩んでいるようだ。
メニューを見入っていると思ったら、諦めたような溜息をついて小さく「ミルクティーをください」と店員に言ったはいいが、未だメニューは開かれたままだ。
と、気付いたら視線が集まっている。
スタンド使いとは全く別の、好奇の目。
女性は承太郎、そして自意識過剰かもしれないが僕を熱心に見つめ、男性はメニューを見て云々と唸っているさんをじっとりとした視線で見ている。
承太郎はそんな男共が気に入らないのだろう、いつもより顔が険しい。
たまに察しのいい奴は承太郎の殺気に感ずいて彼女から目を逸らすけど、大抵の男はデレデレといやらしい目で彼女を見続けている。
彼女は承太郎が密かに闘っていることに全く気付く様子はなく、メニューを見つめて尚も唸った。
注文は終えたと言うのに何を見ているのだろうか?
気になって「まだ何か頼みたいものでもあるのかい?」と聞きながらさんが持つメニューを覗き込む。
くりっとした瞳が僕を映す。
彼女が開いていたページには大きなパフェの写真。
あ、チェリーが乗ってる・・・そういえばチェリー食べてないな・・・。 「これ美味しそうだね」と指差すと、彼女は即座に頷いて「とても美味しそうです!」と笑顔で言った。
そんな笑顔を見ると僕まで顔が緩む。
本当に美味しそうだよね、「チェリーが乗ってるし」と付け加えて言うと、彼女は少しだけ固まって「ああ!そうですよね!チェリーです!」と不思議な同意をしてくれた。





「追加で注文だ」





聞こえてきた言葉に僕と彼女は口を閉ざす。
突然、注文してから(不機嫌で)黙っていた承太郎が通り過ぎようとしていたさっきとは違う店員に声をかけた。
いきなりなんだ、談話していた彼女の顔もきょとんとしている。
すると承太郎は彼女からメニューを取り、





「このパフェ1つ頼む」

「「えっ」」






僕とさんの驚きの声が同時にあがった。
え、承太郎がパフェ?
あまりにもその体躯に似合わない単語だ。
彼女も心底驚いているようで口が開いたままだ・・・あ、目が合った。
ここは僕が聞くべきか・・・。






「じょ、承太郎・・・?今のは君が食べるので頼んだのか・・・?」






内心気が気ではない・・・もし、もしあの空条承太郎が、食べたくてパフェを頼んだなんて言ったら、僕ここのお冷被ってもいいくらいだ。
しばらくは承太郎を見るたびお腹抱えて笑う自信もある。
ドキドキしながら承太郎の返答を待っていると、承太郎はチラりと僕を見たあと、さんを見た。
承太郎と目が合ったさんの首はこてんと横に傾く。






「お前食いたかったんだろ?」

「え?」

「店入る前ずっと見てたくせに何遠慮してんだ」







あ、あー・・・なるほど、そういうことか。
承太郎は言い終わる前に照れ隠しか学帽の鍔を下げ目元を隠した。
だが・・・学帽では隠し切れない耳がほんのりと赤いことを彼は気付いてるのだろうか?
はいはい熱いですねーと思いつつさんが顔を真っ赤にさせてるのを横目に見て、なんだか微笑ましくなる。
まったく・・・承太郎の目にはいつでもさんが映っているんだなぁ・・・。
さっきのパフェだって、さんの視線の先をしっかり見てなきゃわからないことだ、つまり承太郎、君はとんでもなくデレデレじゃあないか。
とんでもないイチャつきを目の当たりにした気分だ、なんだろ、当て付け?当て付けかい、これ。
二人に気付かれぬようにそっと溜息をつくと、本当に嬉しそうに目を細めて承太郎にお礼を言うさんがいて・・・ 改めてどうしてこの二人は付き合わないんだろう、という疑問が浮かぶ。
お礼言われた時の承太郎の顔、本人もさんも気付いてないと思うけど結構緩んでるよ。
承太郎の取り巻きの女の子達とかが見たら卒倒するだろうな。
・・・だけど、この二人って付き合ってないんだよなぁ・・・本当に不思議すぎる。
こんなにも想い合ってるのに、何をためらうのだろうか。
承太郎も彼女も、変に人から引く癖があるから踏み出せないのかな・・・というのは僕の勝手な推測だ。
でも、勝手な言い分だが、僕はどうか二人には幸せになってほしいと思う。
承太郎もさんも、僕にできた初めての友人だ。
この二人が幸せになる道に僕という存在が少しでも貢献できるといい。
そして・・・僕にもいつかできるといいな、二人のように互いを大切に想い、傍にいてくれる人が・・・。
いまだ幸せそうに微笑む彼女に小声で「良かったね、さん」と声をかけた。
彼女はこくんと頷くと、何故か僕に「花京院くん、ありがとうございます」と言うもんだから「うん?」と首を捻る。
・・・僕は何か彼女にお礼を言わせるようなことをしただろうか?
身に覚えのないお礼に戸惑っていると「言いたかったから言ったんです」と返される。
それに短く返したが・・・まいったな、顔が緩むよ。
どういう経緯で僕にお礼を言いたくなったのかは知らないが、彼女の中ではあるのだろう・・・まあ言われて悪い気はしない。
些細なことでもきちんと感謝の言葉を言える、彼女のそういうところが好きだ。
素直で真っ直ぐで、見ていて応援したくなるし手を差し伸べたくなる。
と言っても、手を差し伸べるのは承太郎の役目なわけで、僕は彼女の背を押す担当かな。
彼女と他愛無い話をしていたら、注文していたものがやってきた。
承太郎にまたお礼を言って承太郎がそれに返して、二人の間にほんわりとした空気が流れる。
あーはいはい、と思いつつ僕は自分の頼んだ紅茶に口をつけた。
しばらく彼女は惚けたように承太郎を見ていたが、視線をパフェに移しようやく彼女はスプーンを握る。
パフェは写真で見るより大きくて美味しそうだ・・・もちろんチェリーも。
僕と同じように彼女もそう思っているのか表情が輝いていて、愛らしい。
思わず頭を撫でたくなる衝動に駆られる・・・しないけど。睨まれるのわかってるし。
ふうと息を吐いてもう一口紅茶を口に含もうとしたが、スッとスプーンを持ち上げてパフェを食べようとするさんが見えたので僕はカップを置いた。
パフェを見ていて僕が思ったことはただ一つだ。





さん」

「はい?」

「・・・もし良かったらチェリーもらえないかな?」

「・・・あ、どうぞ!」

「ありがとう」






やっぱりさんはいい子だなぁ。
パフェに乗っていた美味しそうなチェリーは一つしかなかったのに、快く了承してくれた。
貰ったチェリーを上機嫌で口に含むと、承太郎の顰めっ面と目が合う。
・・・これぐらいは許してくれよ、承太郎?
彼女にと頼んだものを僕が少しでも頂くのは気に食わないのかもしれないのは、わかってるけどね。









僕とさんと承太郎