もう、俺達の関係は昔みたいには戻れない。













(5)













朝練の試合はボロクソだった。
見事に完敗。本当にレギュラーなのかと疑われるくらいの酷い結果だ。
もちろん他の部員にも対戦相手である白石にもボロクソ言われた。
『お前、ええ加減にせぇよ。やる気ないんやったら暫く部活くるんやない』
あんなにも冷たい目で見られたのは初めてだ。



(白石・・・相当怒っとった・・・)



でも、それは言われてもしょうがないと思う。
フラフラと頭をいったん冷やそうと思い水道に向かう。
みんな、俺のダメさ加減に呆れてか声もかけてこない。
どんだけ集中してテニスを出来ていないかを自分でもわかっている・・・。
どんなにテニスをしていたって、昨日から頭はどうしても違うことを考えてしまう。



にどないな顔して会えばええねん・・・)



に謝りたい。
だけど、どうやって?
もし深くまた聞いてこられたら、俺はなんて答える?
いや、むしろ答えられるのか?
俺の気持ちを言葉で表したら、の隣に居られなくなるのは目に見えている。
それだけは・・・それは、嫌だ。
の側に、隣に、俺が居られなくなるのは絶対に耐えられない。



と一緒に、居りたいだけなん)



どうしてこうも何もかも変わっていくんだろう。
どうして俺らは子供でいられないんだろう。
やっとのことで水道にたどり着き、蛇口を上に向け思いっきり水を出した。
それに頭ごと突っ込む。



(あー・・・つめた・・・まあ、今の俺にはちょうどええ)



目を閉じて頭が完全に冷えるまでやっていようとした。
だが、それは後ろからだるそうな声に呼びかけられすぐに中断する。
頭を軽く振り水を少し落とす。
それから後ろを振り返れば、着替えを済ませとても不機嫌そうに俺を見ている後輩がいた。






「なんや」

「なんや、やないっすわ。なんなんすか、さっきの試合は・・・酷すぎやろ」

「はは・・・せやな。俺もそう思うわ」






俺が苦笑交じりにそう返せば、代わりに返ってきたのは大きなため息。
財前の目が馬鹿やないですかと語っている。



(本当に・・・凹んでいる先輩にも容赦ない後輩や・・・)



俺もため息を零しそうになるが、それはおかしい気がして慌てて飲み込んだ。
財前は腕を組んで、また一つ大きなため息を零した。






「・・・明日、ダブルスの試合っすよ」

「おん、そやったな」

「もし、明日もこの調子でやるようやったら・・・俺は謙也さんとダブルス組みませんのでよろしゅう頼んます」

「・・・えっ」

「当たり前でしょう。足引っ張られるとわかってて組むわけないやろ」

「う・・・」

「ほな、早よう着替えた方がええですよ?予鈴もうそろそろ鳴りますで」

「えっ!」






クイッと後ろに親指を向け、コートに立っている時計を指す。
あと3分くらいで朝のHRを告げる鐘が鳴るだろうという時間になっていた。
目を財前に戻せば、そこにはもう財前はいない。



(お、置いてかれた・・・!)



俺も急いでタオルで頭を拭き、部室へ駆け戻る。
そして部室前には白石が居り『遅いで謙也!!』と怒鳴られた。
俺がまだ荷物をとってないせいで部室の鍵を閉められなかったのだろう。
重ね重ね申し訳ない気持ちになる・・・。
とりあえず着替えと荷物を持って部室から出て、鍵を白石が閉めたのを確認し一緒に教室まで走る。
現役テニス部ということもあり下駄箱にはすぐ着いた。
素早く上履きにも履き替え、教室まであと少しの距離という時に、白石が「あっ」と声を漏らす。
何事かと思って見れば、白石が唐突に今日朝練で見かけなかった後輩の話題を出した。






「今日金ちゃん朝練居らんかったやろ?」

「え、ああ、そうやな」

「けど金ちゃんな、謙也の試合見とったで」

「はっ?いつの間に金ちゃん来とったん・・・」

「終わり頃や」

「全然気付かんかったわ・・・」

「・・・さんと一緒に居ったんやって」






その一言に走っていた足はピタリと止まってしまった。
の苗字だ。
なんでそれが今ここで出てくる。
しかも後輩の話をしていた最中に・・・。






「なに止まっとんねん!あと30秒もないねんぞ!早よ足動かせ!」

「っ!お、おん・・・!」






そうだ、今はとにかく教室に着くことが先決だ。
白石に言われ、止まっていた足を再び動かした。



(教室について、一通り落ち着いたら話聞こ・・・)








―――――だけど、話は聞けぬまま気付けば放課後になっていた。



(どういうことやねん・・・!!)



白石は授業の休憩時間毎に教室から出て行って、全く話を聞けなかった。
何故か昼休み時間にも白石は姿を消していた。
・・・もまた、休憩時間も昼休みも俺の元に顔を出すことはなかった。
それは自分から行けばいいことなのだろうが、どうも昨日のこともあるし・・・ いつもがこっちに来ていることもあり、あっちの教室には行きづらい。



(なんちゅーヘタレやねん・・・)



自分が情けなさ過ぎる。
ハァとでかいため息を零し、部活に行こうと重い腰を上げた。
白石はというと、薄情にも俺を置いて先に部活に行ってしまっている。



(なんやねんみんなして・・・俺をぼっちにしよってからに・・・)



何気に傷心中なのに容赦なくみんな塩をぶっかけてくる。
またハァとため息を零し、教室を出ようと扉に手をかけようとした寸前・・・ 俺の手は取っ手を掴む前に扉が勝手に開いた。






「え」

「あ」

「あ・・・」






開いた先にいたのは、今日ずっと考えていた人物で、俺の動きは完全に停止した。
も俺がこんなに近くにいるとは思っていなかったのだろう、大きく目を見開いて固まってる。
お互い無言で見詰め合うこと数秒、先に動き出したのはだった。






「どきや」

「お、おん」

「話しようや」

「お、え?」

「席座って」






が真っ直ぐ俺の席の方に歩いていき、俺の隣の席、白石の席に座った。
それから俺の席を指さし、突っ立ったまま動かない俺にもう一度座るように促す。
素直にそれを聞いて自分の席に向かう。
カタン、先ほど重い腰をあげたイスにもう一度腰を下ろした。






「・・・どうしたん」

「話しよ思てきた。部活のことは心配せんでええよ。白石くんに謙也は遅れます言うといた」

「おお、そうなん。そらありがとうございます・・・?」

「おん」






は俺の方を一度も見ることなく、淡々と喋る。
それに心が不安げにざわざわとし出した。



(どないしたんや・・・この空気めっちゃ嫌や・・・)



の側に居たいと思ってるし、今日ようやくに会えてすごく嬉しいが・・・この雰囲気は嫌だ。
とても居心地が悪い。 そわそわとどうしたらいいかわからず、手を弄るしかできない。
チラリと隣を見てみても、相変わらずは違うとこを見ていた。
話をしようと言っておいて、は一言も喋らない。
俺から何か話しかけようかと思ったが・・・いつもお喋りなこの口は今日に限って錆びてしまったかのごとく動きはしない。
パクパクとしているだけで役立たずだ。



(情けな・・・)



本当に、情けない。
気持ちだけで、何の行動も起こせない。
と一緒に居たいと思ってるのに、俺は何をしているんだ。
この関係をいつまでも続けられることは出来ないのなんて知ってる。
側に居たいなら、が幼なじみとしての好きではなく、一人の女として好きならば言わなければならないことがあることも・・・知っている。



(でも、もしそれでと一生、友達にも戻れなくなり一緒に居れなくなるのが嫌で言えへん、俺はとんでもないヘタレ野郎やねん)



どこまでも、ヘタレ。
こんなんで告白したとしても、勝機なんて見えへん。
だけど、決めるなら今しかない。
そんな気持ちもある。
きっと・・・も薄々気付いているとは思う。
俺が変わってしまったことを、は感じていると思う。
だから今ここに、俺と話をしに来てくれたのだろう。



(だったら俺はどうせなあかんと思う?なぁ、ここは、)



男を見せるべきところじゃないだろうか。






「なぁ、

「ん?」

「俺、お前に言わなあかんことがあんねん」

「・・・奇遇やな、私もや」






覚悟を決め、俺はに話しかけるとはこちらを向きしっかりと目を合わせてきた。
どこか強い瞳に見つめられ、言葉が詰まりそうになる。



(・・・いや、頭で考えたらあかん)



変に気取ることはない。
ありのままの、俺の気持ちを、に全部聞いてもらいたい。
ひとつ、大きく深呼吸して俺は今・・・・・・、に告白をする。






「俺、好きや。のこと、好きなんや」

「奇遇やな、私も謙也のこと好きや」

「・・・いや、それは多分の思うてる好きやのうて、」

「謙也と幼なじみやめたい」

「え、・・・え?」

「私、謙也のこともうただの幼なじみとして見れへんのや」






頭が追いつかない。
自慢じゃないが、俺は頭が悪い方なので、どう、え????
この展開は、想像していた展開と、全く違う。



(俺は、に告白を・・・・・・おい、これに告白されてへん?)



その考えについた瞬間、ボッと顔が熱くなった。
口が開閉を繰り返すが、言葉が出てこない。
いやいやいや、まて、まってくれ、






「ちょ、ちょお、待ってくれ・・・それは、その・・・」

「告白やボケ」

「ボケって・・・お前・・・」

「私、謙也のこと好きやねん・・・一緒にずっと居りたい・・・でも今のままじゃあかんねん」






まさしく俺が悩んでいたことをは言葉にして俺に伝える。
真剣なの瞳に真っ赤な顔の俺の顔が映って、余計熱くなるのを感じた。



(って、なんやねんこの展開は!!!)



ハッと我に返り、俺はこの状況は非常に駄目だと気付く。



(なににばっか言わせとんや・・・!)



さっき決めたことを忘れていた。
も、同じ気持ちであることに勝手に満足し、当初の目的を完全に見失っていた。
俺は、俺の気持ちをきちんとにまだ伝えていない。
ぎゅっと拳を握り締め、幸せすぎて声が震えそうになるけど、に、



(俺もな・・・ようやっと、幼なじみやめる発言するわ。そんで、俺の『男』を見せたる)























俺の隣にずっといてくれと願いを込めて。



5.約束のキスをもう一度
(俺も一緒に居りたい、俺の気持ちを全部受け取ってください)







HappyBirthDay!!謙也!!!