ディーノさんを拾ったあの夜から早5日が過ぎた。
今日で6日目。あと一日で一週間になってしまう。
相変わらずディーノさんの部下はディーノさんを迎えに来ない。
私もディーノさんの部下の特徴を教えてもらって、 大学で友達にさり気なく聞いたりちょっとした買い物の時周囲を気にして見たりしてみたけど、たいした情報は得られなかった。
ディーノさんは明るくしてるけど、きっと心の中では不安で仕方ないと思う。
たまに真剣な表情で黙り込んでいるときがあるし・・・。かと言ってディーノさんが直接探しに行くのは何かと危ない。
だって、絶対迷子になるもん。怪我とかもいっぱいしそうだし・・・転んだり転んだり転んだりして・・・。
私はそれが心配なのだ。とんでもないボケや天然、運の悪さをことごとく発揮し、それに巻き込まれてきた私としては。
まあ、自分より年上(たった1歳違いだけど)である人にこんなことを思ってもいいのかとは思うけれど・・・ね。
ふぅ、一息をついて自分の住むアパートを見上げた。
今日もバイトで帰りが遅くなってしまった。
これから遅い夕食だ。
ディーノさんはきっとお腹をすかして待っているんだろうなと思ったら頬が微かに緩む。
『待っている』、そう彼は私の帰りを待ってくれている。
一人暮らしになってから、私の帰りを待つ人は誰もいない。
それはわかっていたけれど、いつも寂しかった。
自分で一人暮らしをすると決めたはずなのに、一人が嫌な時もあった。
そんなことを思うことは、今はない。
少しの間だけだけど、私には帰りを待っていてくれる人がいる。
自分が帰る場所に明かりがあるってすごく素晴らしいことなんだ、と近頃思う。
それもこれも、すべてディーノさんのおかげ。
なんだかんだで非常に大変な出来事やらがあったが、彼が家にいてくれてすごく嬉しい。
只今絶賛迷子中な彼にとってはいい迷惑だとは思うが。
私は買い物袋を揺らしながら階段を上りきり、自分の部屋の鍵を開けた。
「たー・・・、ってディーノさん何してるんですか」
鍵を開け、扉を開けたとたん私の視界に入ったのは玄関先の床にて俯き正座をしているディーノさんの姿。
思わず眉間に皺が寄った。
そんな私に気付くことなくディーノさんは重々しく顔を上げる。
「おかえり・・・」
「はい、ただいまです。」
「はぁ」
「・・・」
きちんと挨拶を返したがディーノさんは溜息をついて再度顔を俯けてしまった。
な、なんなんだろうか、この重い雰囲気は・・・。
帰って来たばっかりの私はまったくもってこの状況が読めない。
どうしたんだろうか・・・。
首を傾げてディーノさんを見下ろしていると、小さな声でディーノさんが何かを呟いたのが聞こえた。
「え??ごめんなさい、もう一度・・・」
「は、」
「はい」
「もし、俺がいなくなったら・・・どうする?」
ぴしりと固まる私の体。色んな意味で固まる。
見上げてきたディーノさんの瞳は不安げに揺れていて、私の姿を歪んで映す。
突然の質問で、どう答えたらいいかわからなくてうまく言葉が出ない。
というか、何故帰ってきて早々、そんな重い質問を?
「ええっと・・・いきなりどうしたんですか?」
「いや、特に意味はない・・・んだが」
とりあえず質問した理由を聞いてみるが、どうも歯切れの悪い返し方をするディーノさんにどんどん不信感が募っていく。
なんかあったとしか思えない・・・。
さっきの質問を思い返し、考えてみた。
ディーノさんがいなくなったら・・・、それは近いうち必ず起こることだ。
その時は私はどう思うだろう・・・、なんて考えるまでもなく、
「やっぱり・・・寂しいと思います」
「・・・え?」
「さっきの質問の答えです。短い間ですけど、ディーノさんと一緒に過ごして仲良くなったんですから寂しくならないわけないじゃないですか」
一週間にも満たない短い期間。
私はその一週間にも満たない期間のなかでディーノさんとすごく仲良くなれた。
久しぶりに、温かい家族を思い出せた。
一人で過ごすことに慣れ始めて、寂しがっていた私。
でも今は寂しくない。
だってディーノさんがいる。
それにとても私は救われたのだ。
だから・・・ディーノさんがいなくなったら寂しい。
私がそう答えるとディーノさんは弱々しく笑った。
何か言葉を返してくるかな、と思っていた私には予想外のことだった。
それから「ありがとな」と呟くと、私が持っていた荷物を手に取り、部屋に入っていこうとする。
質問した意味を答えてくれる気配は一切感じられない。
やっぱり・・・ディーノさん、なんかおかしい。
私に隠していることがある、気がする。
何の証拠も確証もない、ただの直感でそう感じた。
なにか・・・言うべきかな?
けど今聞いたところで、教えてくれる雰囲気でもない。
まあ・・・気が向いたら話してくれるよね・・・?
そう自分に言い聞かせて聞きたい気持ちを押さえ、私は黙ってディーノさんの後を追って部屋に入ろうとした。
しかし、ふいにディーノさんが立ち止まり、私を振り返る。
それから言われた言葉に、私は呆然とした。
まるで、・・・・・・さよならは近いと告げるかのようなその言葉に。
ろく。
「俺がいなくなってもが泣かなければいいな、と思う」
このとき言われた言葉の意味は、本当はどういう意味だったのか。
それは今の私には、わからなかった。
(ディーノさんに迎えが来たら、その時私は、寂しいと感じるだけで終わるのだろうか?)