※これの主設定。
昨日の夜に来たメールが二通。
最近彼氏を通じて仲良くなった女の子、リコちゃんこと相田リコちゃんから一通。
『明日練習試合があるのよねーもし暇だったら見に来ない?』
という素敵過ぎるお誘いメール。
そしてもう一通は私の大好きな彼氏の順平くんこと日向順平くんからだ。
『なぁ明後日数学のノート借してくんねぇ?あ、もちろんカントクには内緒で!』
・・・。
この時の私の心境、
その前に明日について何か言うことないのかよ!
だった。
一瞬、応援しに来てもらいたくないのかな・・・なんて思ったけど、そんな馬鹿な!私達カップルだし!そんな馬鹿な!と暗い考えはすぐに排除する。
そう、これは私の悪いクセ。
勝手に落ち込んで一人悶々と考えて暴走しちゃう。
これで何度も失敗しているのでいい加減学習しなければ!
とりあえず、気持ちを切り替え二人からきたメールへ返信をすべく携帯を握った。
***
今日の朝に来ていたメールは二通。
私の彼氏が所属しているバスケ部のカントクを勤めているリコちゃんこと相田リコちゃんからまたもや一通。
『行き一緒に行けなくてごめんね。来るときは気をつけて・・・くれぐれも変な人について行っちゃダメよ!』
なんとも言えないメールだったが短くお礼をそえたメールを返した。
もう一通はクラスの男子の中で一番仲がいい小金井くんからだ。
『今日練習試合あんだよ!キャプテンいるよ!おいでよ!おいしい差し入れ待ってる!』
お前最後の一文なんだよ、お前それが目当てでメールしただろ。
などと、それだけ書いて送りそうになったメールを慌てて削除する。
前に私の手作り弁当を食べてから小金井くんはやたらたかってくるようになったんだよなぁ・・・そろそろ成敗しないとダメだなアイツ。
・・・うん、あれ?おかしいな・・・メールこれだけかな?
そっとメールの新着受信ボタンを押す。
・・・『新しいメールはございません』・・・ふむ。
「順平くんのバカーーー!!!」
***
私、今、怒ってます。
誰にって?そりゃ彼氏にですけど!!
結局家を出るぎりぎりまで待ったけど順平くんからのお誘いメールは来なかった。
今日・・・バスケの試合出るってリコちゃんと小金井くんからはメールきたのに・・・!
私、実はまだ一回もバスケの試合を見たことないんです。
練習してるとこは見せてもらったことあるけど・・・試合は!一度も!ない!
練習をやっている姿は最高にかっこいいから試合で活躍してる姿なんてもっとかっこいいと思うんですけど!!!
ふんっと鼻を鳴らして昨日リコちゃんに教えてもらったバスケの試合をやる場所へとやってきた。
私の手には小金井くんにも催促されていた差し入れの定番とも言えるレモンのはちみつ漬けとデジカメ
(順平くんのかっこいいとこをなんとかおさめたくて親に土下座して借りてきた)
怒ってるけど順平くんのこと好きなんで!!はい!用意周到で来ましたとも!
前に私の順平くん好きっぷりに友達が至極不思議そうな顔で「日向くんのどこが好きなの」と聞かれて「どこもかしこも!」って答えたときの友達の荒んだ目、忘れない。
そう友達にそんな目で見られるほどに・・・彼が好きです。
・・・本当は順平くんに試合見に来いよって誘われたかったなぁなんて思う。
ていうかなんで誘ってくれないんだろ・・・見られるの恥ずかしいのかな?
うーむと首を傾げつつ、予定より早く着いてしまったが試合会場の敷地にお邪魔する。
きょろりと辺りを見渡して、リコちゃんに地図つきで説明された体育館へと足を向ける。
・・・どうしよう、だんだん不安になってきちゃった。
順平くんが誘わなかった理由、やっぱり私に見に来られるのが嫌だったのかな、とか思い始めたらなんていうかぐるぐるとマイナス思考が私の心を締め付ける。
う、これ以上考えたらなんか吐きそうだわ・・・。
気持ちを入れ替えて・・・私は今日順平くんのかっこいい姿を見に、応援しに来たんだ!!
暗い考えはやめやめ!よっし!
一人ガッツポーズを決めて顔を上げた瞬間、何かが高速で視界を横切った。
ホント、効果音は『ヒュンッ』てな感じ、そして『ガッサン』とその何かが落ちる音も聞こえた。
ふむ・・・パチパチと数度瞬きをしてから、高速で横切っていた何かが落ちただろうところに視線を向ける。
え・・・!!なにあれすごく可愛い・・・!
視線を向けた先にいたのは植木に横たわるとっても可愛らしい黒猫のぬいぐるみ。
首元に赤いリボンなんてつけててさらに・・・さらに可愛い!!
猫のぬいぐるみの方にすぐさま駆け寄りしゃがみ込んで、落ちた拍子についてしまった土をささっと払い落としてあげた。
まだ新しい感じ・・・ちょっと土がついてただけだし・・・ううう肌触りいいなぁ可愛いホント可愛い・・・!
急激に癒された私の頬はゆっるゆるに緩み、傍から見たらお花が飛んでいる状態だと思われる。
持ち主さんがいないなら持って帰りたいくらいだ。
ふにふにとぬいぐるみを上機嫌でいじっていると、不意に大きな声が聞こえた。
あまりの野太い声に驚いて猫ちゃんを落としてしまう。
あああっせっかく綺麗にしたのにまた土が・・・!
慌てて拾い上げて、そろぉっと声のした方へを振り向けば・・・黒髪の男の子と緑の髪の男の子が焦ったように辺りを見渡していた。
「何故なのだよ!俺が何をした・・・!」
「まぁまぁ落ち着けって真ちゃん。いやーまさかサッカーボールが当たってラッキーアイテム吹っ飛ぶとはなぁって、んー・・・ここに落ちたと思うんだけどなぁ・・・」
「どうすればいい高尾・・・見つからなかったら・・・お前死ぬぞ」
「俺がなの!?そこ俺なの!?真ちゃんじゃなくて?!」
「俺は嫌なのだよ」
「俺も嫌だよ!!」
探し物かな・・・?
ぎゃあぎゃあと言い合いを始めた二人に怖気づいて立ち上がれない私、そろそろこのしゃがみ込んでいる体勢がきつくなってきました。
なんとなく立ち上がれない・・・なんていうか・・・緑髪の子・・・めっちゃくちゃおっきくない・・・?
威圧感やばいんだけど・・・多分、いや絶対・・・順平くんよりおっきいっていうか火神くんよりおっきい、のかな・・・。
髪の毛緑であんなにおっきいとか・・・まるで木みたいだ・・・木、とか・・・ぷはっ!!
「!!」
「!?」
ハッと思った時には遅かった。
吹き出した私に気付いた緑髪くんと黒髪くんが同時に私の方を振り向く。
その時の緑髪くんの顔がとてつもなく恐ろしすぎて血の気が引いた。
こ、こわい・・・これは逃げないと・・・!
本能的にそう思ってしまった私は「ごめんなさい!」と一言彼らに向けて言い勢いよく走り去ろうとしたが・・・
情けないことにたった少しの時間しゃがんでいただけだというのに私の足は痺れていて・・・バランスを崩す。
そこで私が向かう先・・・それは地面だ。
「ひえっ・・・!」
「あぶなっ」
「!」
うわあ顔面落下とかー!やだー!
せめて順平くんに会ってから傷物になりたか、いやどっちにしろなりたくないー!
絶望的な気持ちを抱えあと少しで地面と接触、というところで私の体が浮いた。
近かった地面が気付いたら遠くて、すぐ近くで「ナイス真ちゃん!」という声と耳元でため息、お腹には圧迫感。
ぱちり、もう一度瞬きをしてから状況を把握しようと振り返った先に、先ほどの緑髪くんの顔がドアップで私の視界を埋める。
驚きのあまり固まってしまった私に気付いた緑髪くんは不思議そうに首を傾げた、後に私の体は宙に浮いた。
う、えええええ!?
「ちょ、真ちゃん!なにしてんだよ!」
投げ出された体は黒髪くんにうまいことキャッチしてもらい大事にはいたらなかった。
でも気分的にはもうどん底もいいところだ・・・し、しぬかと思った・・・!
涙さえ半分出てきている。
い、いや信じられないでしょ!?
助けてくれてすごく助かったし嬉しかったけど、いや、だって、最終的に投げ出すって!?
どういうことでしょうか!?
抱きとめてくれた黒髪くんの服をきゅっと握ると、「ごめんな・・・怖かったよな?」とすごく心配そうな顔で言われて、
いやいや君は何にも悪くないわけで、謝る必要なんてないわけで、というか私は君にとっても感謝しなきゃいけないわけで・・・。
投げ出された恐怖からか声が震えてしまったが、黒髪くんに手を離してもらってから「ありがとう」と言うと黒髪くんは安心したように笑った。
さて、問題は緑髪くんだ。
転びそうになった時に助けてくれたことは感謝しなければならない・・・しかしその後に投げ飛ばすのはどういう了見だろうか!
そんなに私のドアップ顔がいけなかったんだろうか!
もしいけなかったとしたら今後順平くんにも合わせる顔がない・・・!
心がくじけそうになりつつも、とにかくお礼を・・・そう思い緑髪くんの方を振り返ると、盛大に後退された。
え・・・え??
一歩、彼に近付くと、一歩、彼が後ろに下がる。
うん、え?
本当に私ダメだった系ですか・・・!?
確かに自分の顔面偏差値はそこまで高くないとは思うけど・・・思うけど!
近付くのも拒否られる程でした!?
私これからもう順平くんの横歩けないんだけど!!
緑髪くんの行動に深く深く心を抉られた私は目に涙さえ浮かんできた。
むごい・・・むごすぎるよ・・・!!
ぎゅっと手を握るともふもふとした感触がして、咄嗟にそれを抱きかかえた。
今の私を癒されるのは猫ちゃんしかいないよ・・・!
「っあー!!それ真ちゃんのじゃん!!」
「!?」
「ニャン助!」
「!?」
癒されるため抱き締めていた猫ちゃんを黒髪くんが指をさして叫んだかと思えば、緑髪くんがこれまたすごい顔で猫ちゃんを凝視し「ニャン助!」と言う。
ニャン助・・・ってもしかしてこの子のこと・・・?
猫ちゃんをそっと持ち上げてもふもふ・・・ニャン助・・・お前ニャン助って言うのか・・・かわいい・・・。
・・・うん?
「もしかして・・・この子って貴方のですか?」
「!!あ、ああああ、そう、そうにゃ、!そうなのだよ!!」
私の言葉に緑髪くんが相当焦りながら答えるから私が焦る。
黒髪くんが私の後ろで吹き出したのが聞こえた。
え、ここは笑ってあげた方がよかったの!?
顔を真っ赤にしながら・・・何故か緑髪くんに睨まれてる私。この状況なんなの。
正直怖いし私心傷ついてるし順平くんに会いたいしでもうここから離れたい。
この子・・・緑髪くんの物だって言うからすごく可愛くてもふもふで離れるのがとっても辛いけど、ちゃんと返してあげよう・・・。
また後退されやしないかと思っていたが、私が一歩を踏み出しても緑髪くんは動かなかった・・・というか直立不動・・・逆に行き辛っ!
とろとろと緑髪くんの元へ行き、抱きかかえていた猫ちゃんをそっと彼に差し出すと、なんともぎこちない動きで彼は猫ちゃんを受け取った。
うん・・・なんか緑髪くんと猫ちゃんセット・・・違和感マックス・・・。
じいっと緑髪くんを見ていると彼もじいっと私を見て、は顔を逸らし、また見てきては顔を逸らしの繰り返しをしているのだけど・・・なんなの。
なんですか、と聞こうとした直後に後ろから「あ、そろそろ時間やばくね?早くしねーと誠凛の試合始まっちゃう」という言葉が聞こえ、即座にダッシュ。
二人分の「え!?ちょ、待っ、」っていうのが聞こえましたが、すみません、私順平くん見に来たんで、今他の人を視界にいれる余裕なんてないんです、風になる勢いで体育館内へダッシュ!
***
本当に今日ここに来れてよかったと思う。
いつも仲良くしてくれてるみんなのいつもとは違うかっこいい面がたくさん見れた。
すごいなぁって純粋に思う・・・みんなコート上ではキラキラしてるっていうか・・・あーこういう時にうまい言葉が見つからないよー!
でもその中でもどうしようってくらい順平くんがかっこよくて目が逸らせなくてずっと見つめてた。
息止まりそうなぐらいかっこよかった・・・!!
あんなかっこいい人が私の彼氏かーって思うと幸せすぎて胸がキュンキュンす、ああああデジカメで撮りそこねたあああ!!
一気に消沈。
なにしてんの・・・土下座までして借りてきたのに・・・!
ショックすぎて顔を覆う。
なんか今日変についてない・・・うう!
沈みに沈んでいると聞き慣れた・・・私の大好きな声が聞こえた。
ばっと顔を上げると、さっきまでコートの中で活躍していた順平くんがユニフォームのままこちらに走ってきている。
終わってすぐに駆けつけてくれたことも会えたことも嬉しくって、順平くんがこちらにたどり着くの待ちきれず私も順平くんのところへ走り出した。
「順平くんっお疲れ様!」
「おう、ありがとな!」
走ってきたからか、順平くんの額から汗が流れているのを見てすぐさまハンカチを差し出すと、
「ホントありがとな」って笑いながら言って頭をポンッとしてくれて内心キャー!と大騒ぎだ。
こういうことされるの弱いんだよね・・・!
しばらく大人しく順平くんに頭を撫でられていると急に順平くんがわざとらしく咳払いをした。
なんだろう・・・?撫でている手を下ろし、もう一度咳払いをする順平くん。
ますます不思議に思って見上げると「あー」とか「んー」とか呟いてて疑問は深まるばかりだ。
「順平くん?」
「あー・・・いや、そのさ」
「うん」
「今日のことなんだけど・・・」
今日のことってなんだろう・・・?
首を傾げていると順平くんが小さくぽそぽそと話し出す。
「カントクにさ・・・その、なんで今日の試合のことに言わなかったんだって怒られたんだよ」
「!」
「『なんで私や小金井くんが誘って、彼氏の日向くんが誘ってあげないの!それっておかしいでしょ!またちゃん不安に思ってるわよ!』って・・・蹴りつきでな」
「ええ!」
「まぁ確かに、カントクの言ってること正しいし、俺が悪いって思ったから別にいいんだけどよ」
「・・・」
「・・・正直、が見に来てくれたらそりゃテンション上がるけど・・・なんつうか、いいとこ見せようと思いすぎてミスしちまいそうだなーとか思ったら・・・のこと誘えなかった、んだよな、うん・・・」
最後が尻すぼみになりながらそう言った順平くんの顔は真っ赤で、そんなこと言われた私も顔が燃えるように熱いから順平くん以上に顔が赤いと思う。
順平くんってなんで・・・もう本当に大好きだよ馬鹿・・・いや馬鹿は私です・・・
少しでも順平くんを疑った昨日の夜から今日の朝までの私土下座して。
順平くんのこういうところ可愛いなぁなんて思ってへらりとだらしなく笑うと、順平くんが「にやけんなダァホ」と私の頭を小突いた。
そんなことしてくるのもまたキュンキュンしてしまって、本当に私はどうしようもない順平くん好きだなーと一人再確認で一人惚気。
「・・・でも、今日のこと黙っててごめんな?」
「ううん、謝らないで!結局こうして見に来れたし・・・いっぱいみんなのかっこいい姿も見れたし、何より一番かっこいい順平くんの姿見れたし、順平くんの本音も聞けたし、なんていうか・・・結果オーライっていうか・・・」
「!う、お、おお、そっか!」
「うんっ・・・あ!そうだ!私ね、順平くん達に差し入れのレモンの・・・のぉ!?」
ほわんとした幸せ雰囲気になり最後に差し入れを渡して私は帰ろうと思っていたのに、のに!!
最後の最後でまさかの落とし穴・・・!私いつの間にレモンのはちみつ漬けを入れていた袋を手放した!?
ちゃんと持ってきてたよね!?
うっそ笑えない!
え、い、いつ!?いつ落としたと・・・、
「ああっあの時だ!!」
「え、なに、どうした?」
「いやっあのっ、私みんなへの差し入れ落としてきちゃって・・・!」
「はぁ!?落とした!?」
「うん・・・試合見るまでにちょっと色々ありまして・・・」
きっとあの時・・・ぬいぐるみの猫ちゃんが飛んできてそれを見つけてしゃがんだときに地面に置いて・・・そのまんまにしちゃったんだー!!
うえーん!私の彼女力の見せ所だったのにー!なにしてんのー!
自分の馬鹿さ加減にショックを隠しきれず鼻をすすると、順平くんが焦ったように「差し入れなくても、いや残念だけど、マジでが来てくれただけで満足だし、また今度試合ある時に作ってくれよ!なっ?」
と言ってくれたので、こくんと一つだけ頷く。
だけど渡した時の反応とかを妄想してた分やっぱりダメージは大きい・・・カップルイベントだったのに・・・。
でも次の時に必ずリベンジしよう・・・まぁその前に順平くんには手作りお弁当を食べてもらおうと心に誓う。
順平くん、待っててね・・・!彼女力を頑張って見せるから!
そんな思いを込めつつさり気なく順平くんの手を握ると、
ぎゅって握り返された上に恋人繋ぎにされて、キャー!と今度は声に出して騒いだため順平くんに「うるせぇよダァホ!」とまた頭を小突かれニヤついたのは、はい、私です。
そんな(貴方に/お前に)首ったけ!
***
「・・・真ちゃんさー」
「・・・なんだ」
「あの子に一目惚れしたっしょ」
「!?!」
「あの子のことずっとガン見だったし、去ってった後ろ姿もガン見だったし、試合が始まってもその猫のぬいぐるみ妙に触ってるし、多分あの子が忘れていったっぽい袋もずっと大事に抱えてるし、あとそうそう投げ飛ばしたのもあれ照れ隠しっしょ?てかとりあえず俺に文句を言ってこないで黙ってる真ちゃんが激しく気持ち悪いんだけど」
「う・・・うるさいのだよ・・・」
「あー・・・(こりゃ重症だわな・・・)」
(なんていう会話がされていたことは露知らず、
控え室にてレモンのはちみつ漬けを持っていない私の登場に、小金井くんがブーイングして私が殴り飛ばしたのは順平くんがトイレに行っている時でした)